You can FLY

「おかえり」

僕はもう一人の僕に言った。

もう一人の僕は、少し照れたように

「ただいま。」

と言った。

 

 

女の子になったもうひとりの僕は、僕より小さかった。

 


ゴメンね。

 


心の中で、もう一人の僕に謝る。

 

君の存在を奪ってしまって、ゴメンね。

 

 

でも、僕は君を護るよ。

 


君を、幸せにしたいんだ。

 


エヴァの中で眠りにつこうとしていた僕。

 

もう、戦いたくは無かった僕。

 

僕は君を護るから。

 

絶対、絶対。護るから。

 

 

 


だから、みんな、幸せに・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

You  can  fly ! !

 

 

 

 

 

 

遊園地に行きたい!

 

これはアオイが父さんにお願いしたのだった。

「パパ、お願い。」

の一言で、即決された・・・・・・しかも、チケットはVIP。

父さんは、アオイに甘い。

 

ついでだから、僕もお願いしてみた。

「ねぇ、父さん、僕の友達も誘っていいかな?」

「問題ない。」

父さんは相変わらずだ。

 

 

 

 

 


金曜日、待ち合わせ場所に行くと、トウジはすでに来ていた。

何故だかリツコさんまで居る。

「ゴメン、待ったでしょ?」

「いや、そないな事ないで。」

遅れて、綾波とアオイ、カヲル君がついた。

アオイと手をつなぐカヲル君を見て、リツコさんは目を細めた。

 

でも、これは、アオイの転倒防止策。

何度となくつまずくアオイの腕をつかんでカヲル君は転ぶのをとめたんだけど、その度に半なき状態で座り込むアオイに僕らは辟易し、解決策として、カヲル君が差し出す手に、自分からだったら大丈夫なアオイが手をつなぐようになった。

一度、僕も腕をつかんで止めようとしたんだけど・・・・・一緒に転んだ。

カヲル君の細い体のどこにそんな力だあるんだろう?と思うんだけど・・・・僕との身長差だと言い聞かせたんだ。
(だって、そうじゃないと納得できないと言うか・・・・プライドが・・・・)


母さんによれば、アオイが転ぶのは前の体との違いになれていない所為だと言われて、心が痛んだんだけど。

 

でも、今はダメ。

 

まだすべてが終わっていない。

 

総てが終わったなら、僕はこの体をアオイに返してもいいんだ。

それが可能なら。

でも、今はダメ。まだ無理なのだ。

 

「あら、カヲちゃん。 いい眺めね。」

冷やかすリツコさんに

「そう呼ばないでくださいって言ってますよね!!」

珍しくキツイ口調で返すカヲル君。

「渚、リツコさんにカヲちゃん呼ばれてるんかいな。」

「あー、もー!!だから呼ばないでくださいって言ってるでしょ!!」

どうやら、カヲル君は、『カヲちゃん』とは呼ばれたくはないらしい。

でも、元々の犯人は母さんで・・・・・・・

 

ゴメンね、カヲル君。

 

僕はあの人に逆らう自信が無いよ・・・・・。

 

「カヲちゃん?」

「もー!アオイまで!!」

「いいと思うけど?カヲちゃん。」

「・・・・・・・・好きにしてください・・・・・・」

カヲル君があきらめた所で、トウジが笑いながらやって来た。

「何?」

「ヒカリにな・・・お礼しようを思てんやけど、何こうていいか・・・」

頭をかきつつトウジが言った。

「それを僕に聞く?」

「そやかて、他に相談する相手なんておらへんて。」

「いると思うけど。」

僕の視線の先にいるリツコさん気付いたにトウジはため息をついた。

「聞けへんって・・・・・」

・・・・・・・仕方ない・・・・・・

僕はリツコさんに相談した。

話の内容を聞いたリツコさんは、一瞬だけ驚いた表情になると、

「アクセサリー・・・・・身につけるものなんてどうかしら?」

と、とても優しい顔で言った。

「アクセサリー・・・・・・ですか?」

「そうね、ペンダントとかがいいんじゃないかと思うわ。 誕生石だと、ステキかもね」

 

 

そう言われて、僕たちはショッピングモールを探し回った。

途中でリツコさんと綾波はネルフに向かうので、別れた。

散々探して・・・・・これだ!ってものが見つからなくて・・・・僕たちはショッピングモールを後にした。

少し歩くと、いつもなら目に入らないであろう宝石店が目に入る。

僕はそこに飾られた青い石に釘点けになった。

「綾波、あれ・・・・」

と、指差したら、トウジがニヤニヤしながら僕を見る。

「綾波ならおらへんって。」

何だか、綾波は僕の隣にいるのが当たり前の感覚になっていた事に、改めて気付いた。

「・・・・・・・解ってる。」

僕はそのお店の入り口に向かった。

 

アクアマリン

名前も気に入った。

お店の人は何点かの青い石のネックレスを出してくれたんだけど、最初に見たものが一番だった。

サファイアでもない、ブルートパーズでもなくて、アクアマリン。

綾波に似合いそうな気がした。


トウジもいい加減、疲れたらしく、お店の人に進められるまま、アメジストの(2月の誕生石ってアメジストらしい)ペンダントを買っていた。

そうしたら、カヲル君まで・・・・・。

「アオイは何が欲しい?」

と始まった。

「だって、アオイだけも何も無かったら、可哀想じゃない?」

イヤ、アスカには誰も買ってないから。

そう思ったら、何だか・・・・・・・・

でも、アスカに買うのもな。

僕は嫌がるトウジを無理やり引っ張って、ショッピングモールへ戻った。

 

 

 


 

 

 

 


翌日も暑かった。

何故だか日向さんが送ってくれる事になっていた。

理由を聞くと、

「チルドレンのケアも仕事にうちだよ。」

と言った。

多分、何かあった場合、僕たちを連れて帰る為なんだろうと思う。

でも、素直にありがたいと思った。

前はこんな風になんて、考えられなかった。

今は、素直に人の好意がうれしく思える。

「お兄ちゃん!早く!!」

アオイにせかされるようにして、僕らは家を出た。

 

 

綾波の胸元には、僕が昨日買ったネックレスがあった。

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所に着くと、アスカと洞木さんはすでに来ていて、洞木さんはそこに居るトウジに目を丸くしていた。

「おう、ヒカリ、おはようさん。」

そう言って、トウジは洞木さんの頭にポンと手を置く。


「あ・・・・・・・と、アスカ。 僕の妹だよ。」

アオイを不思議そうに見るアスカにそう言った。

「アンタに妹なんていたんだ・・・・・・・」

「自分で思ってたよりも、複雑な家庭環境だったみたい。」

アスカはクスリと笑うと、自己紹介を始めた。

「アタシはアスカ・惣流・ラングレイ。 シンジの同僚よ。」

「アオイです。」

カヲル君の影に隠れるようにするアオイにアスカは少しだけ眉をひそめた。

あぁ・・・・・アオイはアスカが怖いんだ。

あの時、僕がそうだった様に。

 

でも、アオイ、よく見てごらん。

アスカは、僕らが憧れていた頃に戻ってきてるよ。

 

「ゴメン、アスカ。人見知りが激しくって・・・・・」

「そう・・・・・」

そう言うとアスカはにっこりと笑う。

「大丈夫よ。とって食いやしないから。」

「・・・・・・・アスカ、それは違うと思う。」

ため息混じりに洞木さんは言った。

 

 

 

少し、遅れて来たケンスケと合流して、入り口へと向かう。

ケンスケはいつも通り、重装備だ・・・・・・。

遊園地に入ると、ガイドと思われる人がいた。

「碇様ですね?」

僕が返事をすると、何だか応接室みたいな所に案内された。

ソファを進められ、冷たい飲み物が出されると、ガイドと思われる人も座った。


「何か、希望はございますか?」

「え?」

「優先的に搭乗できるパスを用意いたします。」

・・・・・・・マジですか?

父さんが裏で手を回したんだろう。

本当に、過保護になったなぁ・・・・と思う。

 

せっかくなので、お言葉に甘えることにして、僕たちは相談を始めた。

いくつかの乗り物をピックアップし、そのパスを用意してもらった僕たちは目的の場所へ向かう。

午前中のうちに、目的の乗り物に乗ることが出来た。

 


嬉々として僕たちは食事へ向かう。

だって、さっきからトウジが

「腹減った・・・」

とうるさかったから。

 

 

 

 

 

 

トウジとケンスケは早々に食事を終えると、アスカとカヲル君を引っ張って絶叫マシーンに向かっていた。

アオイは疲れきって、テーブルに突っ伏して撃沈していた。

 

・・・・・人が苦手なのに、人ごみに来るから・・・・・・・

 

でも、考えてみると、こうやって遊園地で遊ぶなんて、初めてかもしれない。

そう思ったら、アオイがここに来たかった理由が分かる気がした。

 

 

「洞木さん、驚いた?」

僕は残った洞木さんに声をかけた。

「驚いたわよ。」

と、洞木さんはいたずらっぽく笑う。

「暇そうにしてたからね。誘っちゃった。」

「碇君に感謝しなきゃ。」

くすくすと笑う洞木さんはとてもかわいく見えた。

「僕もね、洞木さんには感謝してるんだ。」

「私は何もしてないわよ?」

「アスカの事も、トウジの事も、アオイの事も・・・・・」

「そう? じゃあ、お礼でもいただこうかしら?」

「いいよ。」

僕がそう言うと、洞木さんはとてもびっくりしていて・・・・・・きっと、冗談だったんだな、って思った。

「え~~っと・・・・・これ。」

僕はかばんの中から昨日買った包みを出した。

「4人でおそろいなんだ。色違いでね。」

洞木さんは透明、アスカは赤、アオイはピンクで綾波はブルーのジルコニアのついたブレスレット。

すでに、アオイも綾波もつけている。

「あれと同じなの?」

と聞いてくる洞木さんは、気付いていたんだな・・・・と思った。

「うん、そうだよ。」

「ありがとう。」

そう言って、受け取ってくれた洞木さんはうれしそうで、やっぱりリツコさんの言う通りなんだな。

「どういたしまして。 ・・・・と、アスカに渡しといてくれる?」

僕の言葉に、洞木さんは首を振った。

「それはダメ。碇君が渡さなきゃ。 アスカ、喜ぶわよ。」

「・・・・・わかった。」

僕がそう言うと、洞木さんは笑顔を向けてくれた。

そして、包みを開いて中からブレスレットを取り出すと、自分の手首にはめた。

「ありがとう、大切にするわ。」

再び、感謝の言葉をもらった。

 

 

大きなテーブルの端っこで、僕たちは話していた。

反対側の端っこに、綾波とアオイ。

 

さっきまでの喧騒が嘘のように、このテーブルは静かだ。

でも、僕はこの静けさも心地よいものだった。

「ねぇ、碇君。」

何か決したような・・・・そんな感じで洞木さんは僕を呼んだ。

「何?」

「あのね、アスカのことなんだけど・・・・」

言い難そうに言う洞木さんを見て、何が聞きたいのかが分かった気がした。

「うん。 それなんだけど・・・・・」

 

 

 

僕は思考の波にのまれていった。

 

 

 


アスカが同居中に僕にとった態度は、問題が無いとは言えないと思う。

僕自身はどうなのか?

と聞かれたら、僕にだって問題はあったと思う。それは認める。

でも、それとこれは、別。

それが、彼女の『甘え』であったのも、今なら、理解できる。

理解できても、納得は出来ない。

だって、当時の僕は、そんなに大人じゃなかったし、自分の事で精一杯だったから。

それが彼女なりの『甘え』であったなんて、そんな事に気付きもしなかった。

第一、そんな事に気付く事を求める方がおかしい。

僕はそんなに、大人じゃない。

そして、それを相手に求めている事を、『自分の我が侭』であると認めない事だっておかしいんだ。

 

自分は特別だって?

 

どうしたらそう思えるのか、不思議だった。

 

 

でも、そんなアスカが僕は嫌いではなかった。

明るく、勝気なアスカに、憧れにも似た感情は確かにあったと思う。

でも、続く戦いの中で、壊れていく彼女と、自己嫌悪の中にはまり込んでいってしまった自分。

お互いがお互いを傷付けて――僕の存在自体が彼女を傷付けていたんだと思うし――、

お互いに相手にすがる事しか考えていなかった。

お互いに相手の事など、考えられる状況じゃなかった。

いつしか『憧れ』は消えうせ、言葉の暴力に、『脅え』の感情さえ浮かんでいた。

 

僕を嫌いにならないで!僕を捨てないで!!

 

そう思って、すがった。

でも、それは、お互いがお互いを傷付けるだけだった。


そして・・・・・
  僕は、アスカとミサトさんとの生活に疲れていった。

癒されることの無い、求められるだけの生活に疲れていった。

 

そんな状態の僕に、彼女を『好きになれ』と言われても、それは無理。

彼女には彼女の感情があるように、僕には僕の感情がある。

 

だから・・・・無理。

 

 

 

 

「碇君?」

あぁ・・・・考え込んじゃったんだ。

「ねぇ・・・・洞木さん。 僕は綾波が好きだよ。

 とても大切に思ってる。 決して、同情なんかじゃないよ。」

僕はそれだけ言うと、言葉を切った。

「知ってる・・・・・・」

洞木さんは言った。

「アスカにはアスカの気持ちがあるように、僕には僕の気持ちがある。

 だから・・・・・・・・アスカは友達としか思えないよ。」

洞木さんはうなずいた。

「第一、あんなにこき使われて、その人を好きになれるほど、僕はお人よしじゃないよ。」

洞木さんはクスっと笑うと

「確かにね。」

と言った。

多分、僕がアスカを憧れではなく『好き』になった後にこき使われたんだったら、よかったのかもしれない。

今なら、そう思える。

「僕はアスカが好きだよ。友達と・・・仲間としてね。」

「知ってる・・・・・」

「でも、それ以上には思えない。

 綾波がいても、いなくても、それは変わらない。」

「・・・・・・・・そうよね。 あのままじゃ、共依存になっちゃうもの。」

洞木さんの言葉に、驚いた。

「共依存?」

「心理学のね、本を読んだの。 アスカ、明らかにおかしかったから。」

「ありがとう・・・・」

素直に感謝の言葉が出た。

そこまでしてくれた彼女に感謝の気持ちしかなかった。

「いいの。 こっちこそ、感謝してる。」

「?」

「自分が進みたい方向・・・・・と言うか、将来の夢ができたわ。」

「将来・・・・・・・・」

その言葉に呆然とした。

そんな事、全く考えてなかったから。

今と、少しだけ先の未来の事しか僕は考えてはいなかった。

「そう、自分がどんな仕事をしたいのか、とかね。」

そう言って微笑む洞木さんがまぶしかった。

「・・・・・・碇君は、無いの?」

「う~~ん、僕はネルフから離れられないと思うよ。」

そう言いながら、僕の頭の中に公園の遊具でたたずむ綾波が浮かぶ。

 

         僕は、君を、人間にしてあげたい。

 

泣きそうな表情で、すがる様な眼差しで僕を見ていた綾波。

僕は君を幸せにしてあげたい。

だからこそ、思う。

「みんな幸せになれたらいいね・・・・」

アスカが僕に何を望んでいたのかが解っても、それを叶えることは出来そうにない。

だから、彼女をエヴァから、母親からの『呪縛』から解き放ってあげたかった。

たとえ、それが『傲慢』だと言われてもかまわない。

僕はそうしたい。そうしたいと思う。

「碇君?」

「僕はずっと、ネルフにいる事になると思うから。

 それに、戦い続けなくちゃいけなかったから・・・・・

 だから・・・・・考えた事、無かったな。」

「そっか・・・・・・。」

少しだけさびしそうに、洞木さんが言った。

僕たちチルドレンの隣には、確実に『死』と言うものがあるのを彼女は理解している。

 

 

でも・・・・・・それでも・・・・・・・

「でも、それを前向きに考える事だって出来るよね。」

はっと、洞木さんは顔を上げた。

「そうね。 ネルフって、研究機関としても一流でしょ?」

「らしいね・・・・」

「他人事みたいに言わないでよ。 総司令の息子なんでしょ。」

「そんな事言われても・・・・・・他、知らないし。」

「一般論として言ってるんだけど?」

「そ・・・そうなの?」

知らなかった・・・・・と言うより、気にしてなかったよ・・・・・・

そんな所で、責任者をしているリツコさんって優秀なんだ・・・・

身近に居過ぎて気付かなかった・・・・・

「そうです。それに、何か仕事を任されてるって、アスカ、言ってたわよ。」

「何で知ってるの?」

「だから、アスカが言ってたの。アスカ、ずっと、ネルフに通ってたから。」

「・・・・・・・知らなかった・・・・・・」

「知らなかったの?」

「うん。 ・・・・・だって、ずっと部屋に篭りっきりだったんだ。」

洞木さんは少しだけ悲しそうな顔をした。

ゴメン。

アスカの事を気にしている余裕なんて無かったんだ。

「大丈夫、アスカは解ってるから。」

そう言った洞木さんはいつも通りで・・・・・・僕は再び彼女に感謝した。

 

 

 

 

その後、4人でワイワイと戻ってきたアスカに、

「はい。これ。」

と、洞木さんに言われたように、手渡した。

「あれ?」

アスカは洞木さんを指差した。

「うん、そう。4人でお揃い。」

「そう・・・・ ありがと。」

アスカはそう言うと、包みを開いて、洞木さん同様、自分の手首にはめた。

「アンタにしてはいい趣味してるじゃん。」

アスカなりのお褒めの言葉をいただいた。

「そうかな?」

「大切にするわ。」

 

 

 


僕たちは、そのまま閉園時間まで遊園地で遊んだ。

 


 

 

初:2009.07.14(オヤジの青春)

2009.12.02  改定
    


あとがき      
と言う名のタワゴト

 

前回、とても苦労して、本当に苦労して書いた記憶があります。

書きたい事があるのに、イメージはあるのに、映像としても浮かんでくるのに、書けない。

自分の力の無さを、痛感したわけですが・・・・・・

そんな感じで書いたからでしょうか、 今回も、ほとんど手直しをしておりません。  

直しようが無い?

そんな感じです。

 

なにで、サクサクっと終わらせて、心置きなく次を書こう!!などと思っております。

 

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