02 ネルフ、新生

あなたは多くのものを背負いすぎたの。

 

その小さい背中に背負いきれないほどの多くのものを。

 

それは、あなたが背負う必要が無いものもたくさん含まれていたわ。

 


だから・・・・・

 

だから今だけはゆっくりと休みなさい。

そして、人に甘えなさい。

あなたにはそれが許されるのだから。

他の人が許さなくっても、私が許すわ。

私が・・・・・・

私だけは許すから・・・・・

 

 

 

ネルフ、新生

 

 

 

 

「葛城三佐、あなたは自分が優秀な指揮官だと思いますか?」

ここはユイの執務室である。

あの後、指令補佐の地位に納まったユイの為にゲンドウが与えたものだった。

 

彼女からの突然の問いかけに、ミサトは戸惑った。

「優秀な指揮官・・・・・・ですか?」

「そう、ご自分は優秀だと思いますか?」

極上の笑みで問いかける彼女に戸惑いながらもミサトは答えた。
 
 

「・・・・・・・・・・・はい!」
 

彼女はミサトからリツコへと視線を移し、同じ様に問いかけた。
 

「赤木博士、あなたは自分が優秀な技術部長であると思いますか?」
 

彼女の極上の笑みに惑わせれるリツコではない。

リツコは今は亡き母の顔を思い浮かべながら言った。
 
「いいえ」
 
「リ・・・リツコ?」

何か言おうとするミサトを遮るようにリツコは続ける。

「私は、『優秀でありたい』と思っています」
 
一瞬、ほんの一瞬だけ彼女は満足そうにうなづくと

「まぁリッちゃん。何て模範解答!!」

今度こそ、本物の笑みをリツコに向けた。


 
再びミサトの方に向き直ったユイはにっこりと極上の笑みを浮かべながら、こう言った。

「葛城三佐、あなた、作戦部長はお辞めなさい。」

「なっっ!!!」

ミサトの目が見開かれた。そう、怒りで。
 

 

が、ミサトは気付かない。

本当に怒っている人はかえって冷静になり、笑顔ですら浮かべられると云う事を。
 

「自分が優秀だと思ってしまったら、そこから先の進歩はありません。

 優秀である自分が、自分より優秀でないと思っている人の意見なんて聞けないでしょう?

 そういう事です。」
 

 

正論。

これ以上に無い位の正論だった。

 

ミサトは彼女から視線を外すと、拳を握りしめた。

爪が掌に食い込む。その痛みすらミサトには感じていなかった。
 
 

「今までの戦いは見せてもらいました。成功率も聞きました。

 いいですか?勘違いしないでくださいね?

 今まで勝ってこれたのは、運が良かっただけです。それだけです。」

確かにその通りである。

 

だか、ミサトにだってプライドは有る。

そう言われて納得は出来ない。

 

だが、ユイはそれを認めなかった。

「今までの作戦が成功したのは、あなたが優秀だったからではありません。

 子供たちが、命を賭けて頑張ったからです。子供たちが優秀だったからです。」

ユイの言葉はミサトのプライドを打ち砕いていく。

「いいですか?勘違いしないでくださいね」

念を押すようにそう言うユイにミサトは返す言葉がない。

実際にミサトは作戦らしい作戦はほとんど立てていない。

奇跡でもおきないと成功しないような作戦を立て、子供たちに実行させたのも事実である。

いかに未知なる生命体を相手とはいえ、その作戦成功率を知った人々は(戦略や戦術を知っているならなおさらに)、彼女を無能、もしくは無謀と言うであろう。

それ位の成功率でしかなかったのだから・・・・・・

 

それでも彼女は自分を『優秀』と言う。

ユイにはそれが、納得できないのであった。

 

 

自分の心臓の音さえ聞こえそうなくらいの静寂がそこのはあった。

ミサトはただ、呆然と立ち尽くしていた。

何故ユイにここまで言われなければならないのか?

ミサトにはそれが理解できなかったのだ。

 

が、ユイには理由はある。

エヴァの製作者としてはエヴァの力に依存しての作戦を立て、エヴァの力で捥ぎ取った勝利を自分の作戦が成功したと思っている事。

母としては自分の息子を危険にさらし、あまつさえ息子たちの決死の努力で勝ち取った勝利を、自分の作戦が成功したと思っているのだから。

リツコはこの居心地の悪い空間に自分を呼んだユイを恨んだ。

が、しかし同時に、自分がこの場所にいる理由も理解できた。

 

   私に説明しろって事ね・・・・・

 

リツコはため息しかでない。

ミサトはリツコが説明したところで、納得しないであろう。

これまでは、そんな事をまったく考えてはいなかったのだから・・・・・

   全く、ユイさんは私に厄介事ばかり押し付けるんだから・・・・・

リツコはミサトをどうやって説得しようかと考えて、諦めた。

今のミサトには何を言ってもダメだわ。

 

「葛城三佐、ありがとう。もう、いいわ。私もこれから予定があるし・・・・・

 リッちゃん、付き合ってくださる?」

そう言って、ユイは部屋を出て行った。

 

ユイが還って来てから三日目。

着々と実績を重ね信頼を勝ち取ってゆくユイ。

が、一方でシンジは未だに眠ったままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「リッちゃん、例の会議、明日の午後に決定よ。
マヤちゃん、準備をよろしく!」

ユイは突然やってくる。

やって来るだけではない、オマケに厄介ごとまでやって来る。

この1週間で、リツコはいやというほどそれを痛感していた。

 

今回もいきなり技術部に現れて、これである。

 

例の会議とは、サルベージ計画の日にゲンドウが言った『詳しく説明する』為の会議である。

マヤはこれから、会議室の確保と忙しい人たちへの出席の依頼をしなければならなかった。

「それと・・・・・」

ユイは言いしくそうに言葉を切り・・・・そして続けた。

「例の物、出来た?」

   やっぱり・・・・・

リツコは肩を落とした。

今夜も寝れない・・・・・わ。

 

 

「マヤちゃん、リッちゃん借りるわね~

「はぁい」

と、忙しく末端をたたきながら返事をするマヤ。

でも、返してくださいね~と忘れずに付け加えている。

妙に波長が合っている二人だった。

   全く・・・・・・・

とリツコは口の中で呟く。

ユイが来てからと言うもの、いいようにユイに振り回されるリツコだった。


 

 

「で、今度は何です?」

眉間に出来た皺を気にすることもなく、リツコは言った。

「やだぁ・・・・・。

 リツちゃん、冷たい。。。。。。」

「・・・・・・・・(怒)」

リツコの怒りのオーラにユイは少しだけ怯むと、表情を引き締めた。

「ジンジが目を覚ましたわ。」

「本当ですか!?」

「先ほどね。

 医師の診断では、記憶に多少の混乱はあるようだけど、大丈夫だろうって。」

「無事・・・・なんですね?」

「ええ。」

はぁ・・・と息を吐き出して、破顔するリツコ。

 

実は、ここにきて、リツコの人気は赤丸急上昇なのである。

今までの刺々しさが無くなり、ユイに翻弄されてクルクルと表情を変えていく。

そんなリツコの変化を周りの人たちは暖かく見守っていた。

そんなリツコを見てユイは思う。

彼女の苦しみ、背負わされた荷物の重さと、罪の重さを。

 

   全く、ゲンドウさんたら!!

怒りの矛先は、すべて諸悪の根源(?)である自分の夫に向かうのであった。


 

「ねぇ・・・リッちゃん、私ってダメな母親よね。」

寂しそうにユイは言った。

「こんな時そばに居てあげないなんて・・・・・

 最低な母親ね。私は。」

「そんな・・・・・・」

寂しそうにうつむくユイにリツコはかける言葉は無かった。

「でもね、リッちゃん。

 母親ってね、自分の子供を護る為なら鬼にでもなれるのよ。」

その言葉に、リツコは自分の母の顔を思い浮かべた。

自分の母はどうであっただろう?と。

「シンジには幸せになって欲しいの。その為だったら、何だってする。

 今まで何もしてあげられなかったから、いろんな事がしてあげたいのよ。

 親の愛情を感じることなんて無かったし、家族での団欒なんてなかったでしょ?

 当たり前に用意されている食事だとか、リクリエーション的な親子喧嘩だとか・・・・・

 そんな・・・・・本当に小さな幸せをいっぱい、いっぱい一緒に感じたいのよ。」

 

そんな・・・・・そんな事すらシンジは感じる事が出来ていなかった事にリツコは愕然とした。

   私とした事が・・・・・・・・

考えてみれば当たり前なのである。

情緒を安定させない為の偽りの家族しか彼には与えられていなかったのだから。

リツコの顔に苦笑いがうかぶ。

あそこの家族ごっこは、事実上、シンジ君の犠牲の上に成り立っていたんだもの。

ま、ミサトは気付いてないけどね。

アスカも・・・・・・同様と言うより、認めないわね。

碇総司令の命令とはいえ、何もしてこなかった自分をリツコは苦々しく思った。

   

   でも、それは、他の人も同じね。


そして・・・・・・・・・納得した。

今、ユイがしようとしている事を。

チルドレンを『使徒を倒す為の駒』としか見ていない人たちの意識改革。


ネルフは今、変わり始めている。


リツコはそう思う。

ユイが顧問になった技術部では、今まで与えられた仕事をこなすだけだった人も、明確な目的意識をもって仕事をするようになった。


変わらずに、秘匿義務はある。

それでも、できるだけの事は説明し、理解した上で仕事をする。

これがユイの方針だった。


その為の地場をこの1週間でユイは確実に固めている。

その為の努力をユイはしている。

   碇指令がバックに居るとかなんて、全く関係なくなっているものね。

リツコはユイの手腕に舌を巻くのと同時に、『敵にまわさなくてよかった』と思った。

 

「それでも・・・・・・仕事、仕事。仕事。

 そう思ってはいたって、こんな時ですら側についていてやれないんだもの・・・・」

ユイも理屈では解っている。

技術部の顧問となったユイのしなければいけない事は山積みで、その上ほかの事にまで暗躍している。

 

 

 

   次は・・・・・作戦部・・・・か。

 

リツコはミサトの事を思った。

 

 

 

 

 


 

 

 

  

 

 

 

 

シンジの病室の着くと、シンジはベットに座ったまま、窓の外をぼうっと見ていた。

「シンジ君、具合はいかが?」

ノックの音に返事がなかったので、リツコは部屋に入ってきた。

「あ・・・・・リツコさん・・」

シンジはリツコの方を向き・・・彼女の後ろにいる人物に目を留めた。

「・・・・・・母さん?・・・・」

   夢かと思った・・・・・・・

シンジは小さくつぶやいた。

長い永い夢を見ていたのだと、思っていた。あまりにもリアルで、あまりにも哀しい、赤い海での出来事は夢じゃないのかと彼は思ってしまっていたのだった。

しかし、それが夢ではなく、現実であると、今、ここにいるユイが証明していた。

「逢いたかったんだ・・・・・・ずっと・・・・」

シンジの目から涙がこぼれた。

「シンジ!!」

ユイは駆け寄ってシンジを抱きしめた。

自分の中にすっぽりと入ってしまうシンジを改めて愛しいとユイは思った。

「私と暮らしましょう?

 シンジとレイちゃんと私の3人で暮らしましょう。」

「・・・・・・・いいの?」

「何を言ってるの?

 家族なんだから。」

「・・・・・・・うん。」

家族と暮らす。

シンジの夢の1つが叶った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議は、サルベージ計画の時にいたメンバーとシンジ、そしてゲンドウ、冬月とユイ、合わせても20人足らずで始まった。

「まず、知っている人も多いと思うが、紹介しよう。碇ユイくんだ。」

冬月の言葉で始まった。

彼が進行役をするのであろう。

「碇ユイです。」

立ち上がり、名前だけ言うとユイは再び座った。

「現在、彼女は総司令補佐兼、技術部の顧問をしている。

 実は、エヴァンゲリオンの製作者は、彼女だ。」

動揺が走った。

オペレーターはもとより、技術部の人間でさえ知らなかったのだ。

知っていたのは、ゲンドウ、冬月、ユイとリツコだけであった。

「今回の件なのだが・・・」

冬月の声を遮るようにゲンドウは言った。

「私が話そう。」

誰もがゲンドウの言葉を待ち、そして、愕然とすることになる。

「ネルフは国連直属の非公開組織であると同時に、非人道的な組織でもある。

 何故なら、エヴァのコアにはパイロットの肉親の魂が入っている。」

 

誰の声もしなかった。

ただただ、呆然とするだけだった。

「11年前、初めてのエヴァンゲリオンとのシンクロ実験で、ユイは取り込まれてしまった。

 その後、ドイツ支部でも同様な実験が行われ、被験者は魂のほとんどをエヴァに取り込まれてしまった。

 エヴァは人の魂を欲しがっていた様だ。」

 

 

言葉は無かった。

 

 

「彼女たちが取り込まれた後、今回同様にサルベージ計画は行われた。

 が、結果は失敗。今回は、幸運だったと言える。」

 

 

  そ・・・そんな兵器を使っていたのか?

 

 

「そんな!そんなのを何故!?」

ミサトの声がした。

「エヴァでなければ使徒は倒せない。違いますか?葛城三佐?」

ユイの声がした。冷たい声だ。

一番エヴァに依存しているミサトに言われるのは心外だといわんばかりである。

しかし、それをミサトが理解しているとは思えない。

だから余計に声に棘が含まれる。

 

「エヴァは操縦者を選ぶ。

 自我の確立してしまった大人では無理だったと結果づけた。」

再びゲンドウは話し始めた。

「そして、不幸な事故の後、チルドレンが選出されたことになる。」

 

  じゃぁ・・・・と、みなが考えているのは・・・・・・零号機と弐号機のコア・・・・

 

「エヴァのパイロットは自我の確立していない、13~15歳の子供が適任とされている。

 が、これも今後、どうなるのかは分かっていない。

 実際にエヴァは分からない事だらけなのだ。

 それでも、我々はエヴァに頼らなければ使徒を倒すことは出来ない。

 子供たちや、多くの犠牲の上で、人類は護られている事を理解して欲しい。」

 

 

言葉は無かった。

 

いや、言葉に出来なかった。

 

  子供たちの犠牲の上に成り立っている仮初めの平和。

 

解っていた。

そんな事は初めから解っていたのだ。


が、しかし、それを『仕方が無い』で誤魔化していたのも事実であった。

改めて考えさせられる、自分たちの仕事。

 

  その重さに、自分は耐えられるのだろうか?

 

そう思ったメンバーもいたに違いない。


「現在、尊い犠牲の上でエヴァは運用されている。
このままでは、いけないのも事実である。

 その為の研究は始まっている。」

ゲンドウは言葉を切った。

冬月が続ける。

「何か質問はあるか?」

 

   あまりの事に、思考は停止しているのだろうか?

 

手は上がらなかった。

「では・・・・今回の会議はこれまで。

 次は、作戦課の会議となる。オペレーターの諸君は残ってくれ。

 それ以外は、仕事に戻って欲しい。忙しい所、申し訳なかったな。」

 

冬月の言葉で会議は終了となった。


いつの間にか姿を消した加持を追って、ユイも姿を消した。


そして、新たに作戦課の会議が始まる準備がされる。

リツコはいつの間にかいなくなったユイの事が心配だった。

今日だ・・・・・

その為に会議の日付を決めた。

 

   ユイさん・・・・

 

彼女は、自分の手を汚すのを厭わない。

そんなユイが心配であり、同時に頼もしくなるリツコだった。

着々と準備が進められる中、リツコの携帯がなった。

リツコも会議室から姿を消した。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

会議を途中で抜け出して、加持は自分の執務室にいた。

電話を取り、番号と押す。

何度目かのコールの後、留守番電話に切り替わった。

 

 

    葛城、俺だ。

    俺はこれから俺にしか出来ない、俺だから出来る事をしに行くよ。

    だから葛城も、葛城にしか出来ない、葛城だから出来る事をして欲しい。

    そうだな、次に逢えるのは全てが片付いてから・・・になると思う。

    その時はお互い笑って会えるといいな。

    今度逢えたら8年前に言えなかった事を言うよ。

    じゃぁ・・・・

 

加持は留守番電話にメッセージを残した後、煙草に火をつけた。

 

ここは、加持に与えられた執務室。

 

他には誰もいない。

 

今頃は会議中であろうミサトに思いをはせた・・・・・

 

   きっと、辛いだろうな、葛城は・・・・・・

 

ユイがしようとしている事を理解する加持には、ミサトの事が心配であった。

 

   これで潰れるようなら、葛城もそれまでか・・・・

 

 

思い出すのは、ユイとの会話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこに座ってくださる?」

ここはユイの執務室。加持はユイに呼び出されてここにいた。

加持が座るのを確認して、ユイは彼の正面に座った。

「この資料は、セカンドインパクトの報告書よ。」

紙の束をテーブルの上にパサっと抛り言った。

「これはあくまでも、報告書。真実ではないけど・・・・」

「で、俺に何の用です?」

「知りたくないの?」

「そりゃあ知りたいですよ。でも、その意図が解らないだけです。」

「そう?私の下で働かない?

 このままじゃ、あなた、死ぬわよ。」

「・・・・・・・・・・・」

「単刀直入に言うわ。トリプルスパイをやめて欲しいの。

 ゼーレのスパイであり、内調の加持リョウジ君?」

そこまで知っているのか。

と加持は思った。

知った上で、言ってくる。意図が読めなかった。

心当たりなら、ない訳ではないが・・・・

「ゼーレは人類補完計画の発動をしようとしている。知ってるんでしょ?」

「まぁ・・・・多少は・・・」
 

彼女はすべてをさらけ出すつもりなのか?

「本部にエヴァは3機。

 使徒を全て倒した後は脅威になる。

 違う?」

「まぁ・・・そうでしょうな。」

「その場合、どうなると思う?」

「さぁ?」

加持はわざととぼけて見せた。

彼女はどこまで知っていて、どこまで話すつもりなのか、解らなかったからだ。

「あなたならどうなさる?」

「そうですねぇ・・・・本部の武力制圧でもしましょうか。」

「そうよね。私でもそうするもの。」

「・・・・・・・・・・じゃぁ・・・」

「そう。そうならない為にはあなたが必要なの。内調との繋がりがね。」

加持は、ユイが求めている事を理解した気がした。

彼女は、俺に橋渡しを求めている、と。

「内々には日本政府に依頼はするつもり。でも、資料が無い。」

「俺にその資料になれ・・・・と?」

「早く言えばそうなるわね。」

ユイは軽く言ってのけた。

加持はポケットを探し、タバコを取り出しくわえた。

が、火を点けようとして灰皿が無いことに気づく。

 

 

「今、お茶を淹れるわね。」

立ち上がったユイは、テーブルの上に灰皿を置くと、お茶の支度を始めた。

立て続けにタバコを吸った加持は、レポートに手を伸ばした。


これは!!!


克明に書かれたレポート。

そこにあったのは    

 

   被験者 葛城 ミサト

 

の文字だった。

   やっぱり・・・・

加持は自分が調べていた事が真実だった事を改めて感じた。

 

ここまで自分に教える事の意味を理解出来ないほど、彼は愚かではなかった。

   次はどんな話か?

   協力はするのか?

相手の本気さに、気圧されている自分に彼は気付いた。

 

 

「コーヒーでよかったかしら?」

ユイはコーヒーをテーブルに置いた。

「毒なんて入れていないわよ。」

そう言うと彼女はコーヒーに手をつけた。

「で・・・・・・決まった?」

「・・・・・・・・・・・」

加持は決めかねていた。

確かに彼女の考えている通りならば、ネルフは確実に潰されるだろう。

反逆者の汚名とともに。

それは、彼にとっても由々しき事態である。

   では、どうする?

今すぐに返事を求められている。

   時間が無いのか?


「今すぐには、答えられない?」

 

そうよね・・・・と彼女はつぶやいた。

 

「南極で神様を見つけたの。

 見つけただけではなく、神様の力を利用しようとしたのがゼーレ。

 それに踊らされるかのように、利用されたのが葛城博士。

 S2理論を唱えていた彼は、眠っているアダムをおこしてしまった。

 最悪の形で・・・・。それが、セカンドインパクト。

 そして、使徒は世に放たれた。」

ユイは独り言のように話し続けた。

「その後、15年後に使徒が再来する事を知って、倒す為の手段が考えられた。

 神様の力を借りて・・・言うよりコピーして出来たのがエヴァ。」


彼女は、メモリーディスクを取り出した。

「ここにね、その他の事・・・人類保管計画とか詳しい情報が入っているわ。

 協力してくれるのなら、あなたにこれを渡すわ。」

 

加持は考えた。

自分は今、岐路に立たされている。

どちらを選ぶかで今後の人生は、変わる。確実に。

「あなたにだって、守りたい人の一人や二人、いるんでしょ?」

加持の脳裏に一人の女性の顔が浮かんだ。

   葛城・・・・・・・

   俺はお前を守りたいと思ったんだ。

   十年前のあの頃から・・・・・・

   だから、『力』が欲しいと思ったんだ。

   だから、『真実』が知りたいと思ったんだ。

   そうだったんだ・・・・・

   忘れていた・・・

と加持は思った。

そして、ユイがゲンドウをどう思っているのかが気になった。

果たして彼女は、リツコとゲンドウの関係を知っているのかと。

「私?いるわよ」

加持の問いかけるような視線にユイは答えた。

「私は、私の家族を護りたい。私の大切な人を、私を大切だと思ってくれる人を守りたいの。

 ぶっちゃけ、全人類なんでどうでもいいのよ。そんな奇麗事、言うつもりなんて無いわ。」

「家族・・・・ですか?」

ユイは加持が知りたがっている事を理解した気がした。

「そう。家族。シンジとレイちゃん、ゲンドウさんと私。4人で家族なのよ。」

 

彼女は知らないのだろうか?

   いや、そんな事は無い。

加持は思った。

「大切なものを守る為なら、何だってするわ。鬼にだってなれるし、悪魔にだって魂を売るわよ。

 ・・・・・・・今はね、そんな気分なの。」

加持は気付いた。

自分が守りたいと思った女性と、ユイとの違いを。

今の彼女なら、自分の手を汚すことを厭わずになんでもするだろう。

偽善的な考えなど持たずに、自分している事は「悪い事」だと理解した上で、行動をおこすであろう。

このままじゃ、俺は消される・・・・・か。

「ネルフは人類補完計画を破棄するわ。」

「!!!!!」

この一言で加持は決めた。

これは暗に『ゼーレとは手を切る』と言っているのだから。


「3日後に、副指令を誘拐するようにと指示が出ています。
それを利用します。」

「どうやって?」

「副指令の誘拐が発覚して、処分された形をとります。

 俺を、撃ってください。」

「!!!!!」

「死なない程度で、お願いします。」

「・・・・・・・・解ったわ。」

ユイの顔には決意があった。

「でね、お願いがあるの。

 今、リッちゃんが、携帯用のパソコンを作っているわ。

 あなたの指紋、静脈で認識し起動するタイプのをね。

 だから、あなたにはあるチップを体に埋め込んで欲しいの。

 あなたから一定以上パソコンが離れたら、メモリーはブラックアウするようにする為に。

 いいかしら?」

「これは、また・・・・・・」

「このディスクには、すべてが入っているわ。ネルフにとっての暗部もね。」

 

   そこまで・・・・・

 

と加持は思った。

「だから、あなたが情報を選んで欲しいの。

 流す先もね。一任するわ。」

「解りました・・・・」

「じゃぁ・・・・これ、読んでおいて。」

ユイはメモリーディスクを加持に渡した。

「加持君、私、射撃ってした事が無いのよ。

 だから、心臓を狙ったけど、外れて肩に当たった・・・でいいかしら?」

「おまかせします。」

受け取った加持は、そのまま部屋を出て行こうとし、ユイに呼び止められた。

「あなたの大切な・・・守りたいと思った人によろしく。」

ユイの言葉に無言でうなずくと、加持は部屋を出て行った。

 

 

そして、当日・・・・・・

見事にユイに左肩を撃ち抜かれ、リツコに応急処置をされた加持は、姿を消したのだった。

 

 

初 : 2009.04.27 (オヤジの青春)

2009.11.15 改定

 

 

 

 

あとがき    という名のタワゴト
 

と、ゆ~訳で、第3弾です。

前回のあとがきにも書いたんですが・・・・・・・子供たちが出てきません。

これでいいのだろうか?

と、悩みながら書いたのを覚えております。

 

ユイさんですが・・・・・・・・自分自身も母親なもので、(残念ながら娘しないないケド)子供を守る為の『母親のエゴ』は充分に理解しております。

ただ、それと上手く折り合いをつけないと、モンスターペアレンツなるものになってしまうんだろうな・・・と思います。

 

 

次回の更新は、新作の方になる予定です。

こちらの方も、時間を見付けては更新したいと思っております。

 

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