「やはりダメです!
エントリープラグ排出信号受け付けません!!」
末端と格闘しつつマヤが言った。
「予備と疑似信号は?」
「拒絶されています!
直轄回路もつながりません!!」
リツコの問いに悲鳴のような声で返事をするマヤ。
「プラグの映像回路、つながりました!
主モニターに回します。」
日向の声に、視線はモニターに移動する。
そこに映し出されたのは、漂うプラグスーツ。
これがシンクロ率400%の正体なのか?
エヴァっていったい何?
それがここにいる人たちの思いだった。
心のかたち 人のかたち
君は誰?
君は僕。 僕は君。
え?
僕は少しだけ未来の碇シンジ
え?
僕は赤い世界から戻ってきたんだ。
赤い・・・・・世界?
サードインパクトが起きた世界から還ってきたんだ。
サードインパクト?
じゃあ、使徒は倒せなかったの?
いや。使徒は倒したさ。
でも、人類補完計画が発動されてしまったんだよ。
人類補完計画?
そう。人類補完計画。
話すと長くなっちゃうんだ。
聞きたい?
・・・・・・・・・・・・。
僕はみんなを守りたくてこの世界に還って来たんだ。
だから、一緒に帰ろう。
・・・・・・・・・・・・。
帰りたくないの?
もう・・・・・・・疲れたよ。
・・・・・それに・・・戦いたくないんだ。
そっか・・・・・・・
うん・・・・・・
じゃあ、力を貸してくれないか?
僕は還りたいんだ!
力を・・・・・貸す?
お願いだよ。
別に・・・・・かまわない。
ありがとう。
君が本当に帰りたくないのなら・・・・・・
エヴァの中で母さんと一緒に眠ればいいよ。
母さん?
気付いてるんだろ?母さんの存在。
うん・・・・・・・・。
じゃあ、僕は行くね。
必ず迎えに来るよ。戦いが済んだら・・・・・・・・
あなたは誰?
あなたは私。私はあなた。
え?
私は赤い世界から還ってきた碇ユイ。
え?
サードインパクトが起きた世界から還ってきたの。
人類補完計画が発動されてしまったのね?
そう。初号機とシンジを依代としてね。
え?
シンジは頑張ったわ。知っているでしょ?
えぇ。
でも・・・・・・ダメだったの。
だから、還ってきたのよ。
みんなで幸せになる為に!
そう・・・・・・。
今度こそ、サードインパクトを発動させない為に還ってきたの。
そう・・・・・・・。
じゃぁ、私、残るわ。
え?
だって、私がいなくなったらエヴァは動かないでしょ?
で・・・・でも。。。。。。。。
どうやら、ここのシンジも残るみたいだし。
うふふ・・・・・
親子水入らずでここに残るわね。
ありがとう
いいえ、どういたしまして。
あなたも頑張ってね。
「準備が完了しました。」
ここは、ゲージを見渡せるコントロールルーム。
サルベージ計画を実行しようとしているのだった。
極端に人払いされた室内とゲージ。
医療班は待機しているが、ゲージの外だ。
「自我境界パルス、接続完了。」
「サルベージスタート!」
リツコの指示の元、計画はスタートした。
「了解。第一信号を送ります。」
緊張に包まれる中、マヤの声が響く。
「エヴァ、信号を受信。拒絶反応、ありません。」
「続けて第二第三信号を送信開始。」
「対象カテプ指数、異常なし。」
「エストルド、認められません。」
「了解。対象をステージⅡへ移行」
順調に進む計画。
そして・・・・・
モニターを見ていたマヤから声が上がった。
「プラグ内に生体反応。2つあります!!」
「本当かい?マヤちゃん」
「本当なんです、日向さん。本当に2つあるんです!」
まさか・・・・・ユイさん?
リツコは激しく動揺した。
「ちょっとぉ、リツコ、なんな・・」
リツコはミサトの言葉を手で遮ると、震える手で電話をとって司令室の内線をおした。
「碇指令、赤木です。計画は順調に進んでいます。
ただ・・・・・・・」
言葉を切る。
リツコにとっては最も望んでいない、ゲンドウにとっては最も望んでいた事が起きた事を感じていたからだ。
「プラグ内に生体反応が2つあります。」
電話の向こうから、ガタンと言う音を聞いたリツコは無言で電話を切った。
「モニターに映像、出せるかしら?」
声が震えるのを精一杯おさせたリツコがいった。
「はい。今、回します。」
その言葉と共に、映し出されたプラグ内。
そこには・・・・・・・シンジと共に妙齢の女性がいた。
その女性はシンジにすがり付いて泣いているようだった。
ユイさんだ・・・・・・
リツコは回らない頭で考える。
あぁ・・・・指示を・・・指示をださないと・・・・・
「LCLは排水。その後、エントリープラグを排出。
・・・・・・・・・・・・・私が行きます。」
そして、外にいる人にも聞こえるように、マイクを取った。
「その場で待機してください。そして・・・この事はSS級の機密とします。」
崩れ落ちそうになるのを必死でこらえ、リツコはコントロールルームを出た。
ミサトが何か言ってた気がする・・・・・
リツコには他の人の言葉が耳に入らなかった。
エントリープラグの中では、意識の無いシンジを抱きしめて、ユイが泣いていた。
ただ、ただ・・・・・息子の名を呼びながら。
ゲージに着くと、タオルの1枚すら持ってこなかった事に気付いたリツコは、慌てて白衣を脱いだ。
私とした事が・・・・・・
こんなにまで動揺している自分が可笑しかった。
笑い出したくなる自分を抑える為、大きく深呼吸をすると、エントリープラグを覗き込んだ。
「碇・・・・ユイさん・・・・ですよね?」
声をかけられた女性は、ハッとするとリツコの顔をまじまじと見た。
まるで何かを思い出すかのように・・・・・
「リッちゃん?」
「え?」
「リッちゃんでしょ?ナオコさんのお嬢さんの赤木リツコさん。違う?」
「はい・・・・そうです。」
記憶の彼方にあった顔。碇ユイ。
写真の中にある姿のまま、彼女は存在していた。
「リッちゃん、こめんなさい。色々とごめんなさい。」
「・・・・・・何の事でしょう?」
この人は全てを知っている。
リツコは何故だかそう思った。
知っていて尚、謝っているんだ。
「ここじゃ話せないわよね。後でゆっくり話しましょう?」
「・・・・・・・・・・」
ユイの視線に、リツコは白衣を持ったままなのに気付いた。
私とした事が・・・・・
今日は動揺しっぱなしだわ。
そう思いながら、白衣をユイに手渡した。
ありがとう・・・・そう言ってユイは白衣を受け取ると、エントリープラグの中で着込んだ。
そして、リツコの目をしっかりと見据えた。
「でもね、これだけは言いたいの。
私はみんなが幸せになる為に還ってきたの。だから、幸せになりましょう!」
そう言うとユイはにっこりと微笑った。
その瞬間、リツコは『負け』を感じた。
「どうなったんでしょうねぇ、シンジ君」
静寂に耐え切れなくなったマヤが、心配そうに言った。
モニターには、プラグから出したシンジがストレッチャーに乗せられた姿が映っている。
「助かってもらわないと、困るのよ。
だって、シンジ君じゃないと初号機、動かないんだもの・・・」
ふと洩らしたミサトの本音にマヤは驚愕の表情をうかべた。
マヤだけではない、青葉も日向も苦々しい表情でモニターを見ていた。
「葛城さん!!!!」
マヤの非難がましい声に、ミサトはたじろいだ。
「な・・・なによぉ・・・」
「今は・・・・今だけでいいから、純粋にシンジ君の事、心配してあげてください!」
「!!!!
何よ!私が心配していないとでも言うの?」
「そんな事、言ってません。
ただ、葛城さんは『エヴァに乗れるから』シンジ君を心配しているように聞こえただけです!」
目に涙を浮かべながらにらみつけるマヤの視線に負けて、ミサとは目をそらした。
道具としての初号機。
これは、サルベージ計画を聞いた時にミサトがリツコに投げかけた言葉だった。
私も同じだというの?
目にしたくない現実を突きつけられて、ミサとは困惑した。
そんな・・・・そんな事・・・・ない。
私だって、シンジ君は心配だもの。
でも、彼しか初号機に乗れないのも事実じゃない。
何よ、マヤってばいい子ぶって!!
だから、ガキはイヤなのよ!
矛先をマヤに移す事によって、ミサトは自分の中に生まれたどす黒い感情から逃げ出した。
そして、再び襲った沈黙は、リツコの声で破られた。
「シンジ君は生きています。
詳しい事は精密検査をしてみないと分らないですが、生存は確認されました。
後日、改めて碇指令からお話があります。それまで、この事は他言しないように。以上です。」
スピーカーから流れたリツコの言葉に、ホゥと息がもれる。
「よかったぁ・・・」
泣き出すマヤに、先手を打たれた気がしてミサトは彼女をにらみつけた。
そしてミサトは、マヤとマヤを慰める2人を残し、部屋を出て行くのだった。
ユイが目を覚ますと枕元には、パイプ椅子に座って、腕を組んだまま眠るゲンドウがいた。
あぁ・・・・還ってきたんだ。
やっと逢えた、ゲンドウさん・・・・・・
ユイはその姿を愛おしいと思った。
どの位眺めていたのだろうか?
疲れが浮かぶその頬を、ふれたい・・・と思いユイは手を伸ばす。
手が頬にふれようとしたその瞬間、ゲンドウは目を開けた。
「ユイ、起きたのか?」
眠っていても周りを警戒したままのゲンドウが、ユイはとても哀しかった。
「はい。あなた。おはようございます。」
微笑むユイにゲンドウの口元が少しだけほころんだ。
「あぁ・・・・おはよう。体は大丈夫か?」
「はい。私は大丈夫。でも・・・・・シンジは?」
「精密検査の結果、異常は無かった。ただ、寝ているだけだ。
何時目を覚ますかは、神のみぞ知る・・・・・だな。」
ゲンドウの言葉に、改めて安心をするユイ。
彼女はシンジが無事なのは知っていた。一緒に還ってきたのだから。
それでも、心配は心配なのだった。
食事を取って来る・・・・・そう言って立ち上がったゲンドウをユイは手を捕まえて止めた。
「もう少しだけ・・・・・・もう少しでいいからこのままでいてください。」
そう言われ、ゲンドウは椅子に座りなおした。
穏やかに流れる時間。
言葉は要らない。
でも・・・・・・切り出さなければ・・・・私はその為に還ってきたのだから。
「あなた、お話があります。」
ユイの決死の表情を見て、ゲンドウも襟を糺す。
「ゲンドウさん、あなたがしてきた事、あなたがよろうとしてる事、すべてを私は知っています。」
「何だと?」
ゲンドウは愕然とした。
すべてを知って、なお、ユイは私を赦すのかと。
「シンジにした事、他の人にしてきた事、あなたがしようとしている事。
すべてを私は赦せません。
でも・・・・・・・・ あなたが私を必要としてくれた事は嬉しかった。
だから、私はあなたを赦します。」
「・・・・・・・・・そうか・・・・・」
「でも・・・・・このままではいけない。そうですよね?」
「あぁ・・・・・・」
「だから、その為に計画は破棄してください。」
盗聴されている事を恐れ、言葉を選ぶ。
「裏切るのか?」
「結果的にはそうなります。」
「そうか・・・・」
ゲンドウは考えた。
元々がユイに再び逢う為の計画である。
破棄する事は容易い。それは、あくまでも、気持ちの上では・・・である。
実際、ゼーレを裏切る事は可能なのだろうか?
「私に指令補佐の階級をください。
そして、レイちゃんを引き取って、シンジと3人で暮らします。」
ユイに何か策があるのか?とゲンドウは思った。
でも、ここで話すのは拙いな・・・・
「・・・・・・・・解かった。」
そう言うとゲンドウは寂しげに、少しだけ笑った。
自分のしてきた事を、シンジが許す事がないのも彼は解っていたのだった。
「後でキャッシュ機能のついたIDカードを届けさせる。服や・・・必要な物はそれで買うといい。
部屋は早急に用意させる。」
それだけ言うとゲンドウは立ち上がった。
「仕事に戻る。これ以上いると、冬月に叱られる。」
「あなた・・・・・
ゲンドウさん、ありがとうございます。」
そう言ってユイは頭を下げた。
無言でうなづくと、ゲンドウは仕事に向かうのだった。
その背中に向かって、ユイは
「いってらっしゃい。」
と声をかけるのだった。
初 : 2009.04.07 (オヤジの青春)
あとがき と言う名のたわごと
ナナミです。
これは、2009.4.7に オヤジの青春 に投稿したものを加筆訂正したものです。
自分のサイトをオープンするにあたり・・・・・・あまりにも寂しいので・・・・・・・・って事でUPしました。
が!
そこの管理人さんである takeさん と連絡がつきません。
ごめんなさい。勝手にUPしちゃいました。m(u u)m
リンクもしてありますので、そちらも宜しくお願いいたします。
このお話は、完結しておりますので、時間を見付けては更新していきたいと思います。
2009.11.13 名波 薫乃