見渡す限りの赤い世界。
空も、海も、赤かった。
一緒に来た赤いプラグスーツに身を包んだ女の子は、ずいぶん前にLCLになってしまった。
何も無い・・・・・・・
彼はそう思った。
「血・・・・・・・みたいだな。」
口には出してみたものの、答えてくれる人が居ないのも、彼は、知っていた。
波打ち際にぼんやりとたたずむ。
どれ位の時間がたったのだろう?
ほんの10分だったかもしれないし、1日や2日経っていたのかもしれない。
眠くもならず、空腹も感じず、ましてや喉の渇きすら感じない。
あるのは、絶対的な孤独だけだった。
僕はどうしたかったのだろう?
彼は考える。
父さんに呼ばれて、エヴァに乗って・・・・・・・
段々と追い詰められた自分。
壊れていく、アスカ。
自爆した綾波。
そして・・・・・・・・・・・、カヲル君を殺した。
彼は頭を振った。
「違う!!!違うんだ!!!」
彼は大声で叫んだ。
「僕は・・・・僕はみんなと一緒に暮らしたかったんだ」
彼の声を聞くものはいない。
「僕は、僕を必要としてくれている人の期待に応えたかったんだ・・・・」
「いや・・・・・・違う・・・・・・・
本当は・・・・
父さんがいて母さんがいて・・・・・そんな・・・・・家族と暮らしたかったんだ」
搾り出すような声だった。
彼は考えた。
父の事、アスカの事、ミサトの事、トウジやケンスケの事、ネルフのメンバーの事、エヴァの事。
カヲルの事とカヲルを殺してしまった自分の事。
そして・・・・・・・綾波レイの事。
何故だか彼はスコンと納得した。
「そうか。僕は綾波の事が好きだったんだ・・・・・」
だから、自爆の時にショックを受けたんだ。
だから、3人目と聞いてショックだったんだ。
そう、僕の知っている・・・・いや、僕の好きな綾波を冒瀆された気がしたんだ。
でも・・・・・
2人目も3人目も関係ない。
綾波は綾波。
そんな簡単な事も解らずに綾波を傷つけてしまったんだ。
ふっと彼は笑った。
「許してもらえないな」
そう言って彼は再び思考の中に戻っていった。
そして、気付く。
赤い海からの来るものに。
溶け合ってしまった人々の意識・・・・・・・
「今なら、真実が解かるかもしれない・・・・・」
彼は一歩を踏み出した。
LCLの海の中に。
今なら真実が解かるかもしれない。
彼は再び、思考の波に身を任せた。
彼がふと顔を上げた。
いつの間にか、波打ち際でたたずんでいたのだった。
天から一筋の光。
・・・・・・・何を願うの?・・・・・・・・
「僕は父さんと母さんと家族で暮らしたい。
アスカやミサトさんやリツコさん、ネルフのみんなと一緒にいたい!
そして・・・・・」
一瞬の躊躇の後、躊躇う事無く言葉を続ける。
「許してもらえるのなら、カヲルくんや綾波と一緒に生きて行きたい!」
・・・・・・・それが・・・あなたの願いなの?・・・・・・・
彼はうなずいた。
・・・・・・・そう、分かったわ・・・・・・・・・
光に包まれる。
「・・・・・・もしかして・・・・綾波?」
彼の意識はそこで途絶えた。
2009.11.13