1年前の丁度今頃、アタシは幼馴染であるシンジと七夕の短冊を書いた。
騙すようにして連れてきた七夕のイベントは、直前の日曜日だったから、とても混んでいたのを覚えている。
家では笹飾りなんてもうしない。だから、連れてきた。
でもって、ここで短冊に願いを書いて、七夕当日に告白?なんて事、考えてた訳だ。
中々先に進めない、そんな曖昧な関係に終止符を打とうと思ってた訳だ。
でも・・・・・・出来なかった。
そして、出来なかった事を、今、激しく後悔している。
初恋
side asuka
幼馴染。
一見、ロマンチックに聞こえるこの関係。でも、実は恋愛に発展させようとするとえらく手間取る。
一緒に居るのが当たり前で、何でも知っているんだ、と勘違いしやすい。
そして、自分の気持ちを打ち明けるタイミングが中々難しい。本当に難しいんだ。
元々が“素直”とは程遠い性格をしている所為もある。否定はしない。
見栄を張って『アンタなんか何とも思ってないわよ』って態度をとり続けた所為もある。
でも・・・・・・ずっと、好きだったんだ。
アタシよりチビで泣き虫で愚図だった頃から。だって、本当は優しいの知ってたし、自分よりも相手の事を考えるって知ってたし。
そんなアイツの評判が変わったのは高校生になってから。
チビだったのに、いつの間にかアタシの身長を追い越し、180cmを超えた。
『可愛い』が『かっこいい』に、『優柔不断』が『優しい』と言われる様になり、周りの女子の評価も変わった。アタシがアイツを「好きだ」って言うと、「え~、碇君?頼りなさそうじゃない?」が「あ~碇君、優しいそうだモンね。」に変わった。
イヤ、アイツ、そんなんじゃないし。アタシにはガンガン文句言うし。でも、それが“アタシの為”だって理解できるから、文句を言いながらも従ってたんだし。小さい頃から兄弟の様に一緒に育ったから、お互いに良い所も悪い所も全て知ってて、その上で好きなんだし。
変わった外見で変わったしまった評価に憤りを感じつつ、中身は変わらないのにな~なんて思っていた。
だから、今年も七夕のイベントに誘った。
が!!!思いっ切り、振られた。
予定があるんだと。
あ~そ~ですか。
「じゃぁ、アタシは別の男と出かけてくるわ。」
そう、あてつけで言った所で何の反応も無い所か、「アスカ、彼氏出来たんだぁ。」と喜んでやがる。
「アタシはアンタと違ってもてるのよ。」
そう言ってみた。
「だよね・・・・・・。」
そこ、同意するところじゃないから!第一、アンタ、実はもてるんだから。アタシがぶっ潰してるんだけなんだよ。気付けよ、この、鈍感ヤロー!!!
「彼氏じゃないわよ!!」
だから怒りのあまり思わず叫んでた。
「え?」
鳩が豆鉄砲食らうってこんな顔?
「彼氏じゃなくて、ボーイフレンド。唯のトモダチなの。」
「え?友だち?」
「そ。ト モ ダ チ。アンタにもいるでしょ?女友達の一人や二人や三人。」
言ってて心が痛んだ。でも、悔しいから顔になんか出してやんない。
アタシ、アンタの所為でポーカーフェイスに磨きがかったわよ。
「・・・・・・・・。」
だから、どうしてそこで黙る。黙るって事はいないんだな。
ま、これ位の事は、アタシじゃなくても解るだろうけどサ。
「・・・・・・・・。」
無言で見返した。そしたら、先に視線をそらせたのはシンジの方だった。
え?ちょっと待て、どうしてそうなる?
「・・・・・・・いるよ。」
え?マジ?
きっと、鳩が豆鉄砲食らうってこんな顔。
一瞬、言葉に詰まった。
「・・・・・・・マジで?」
「マジで・・・・・・・・。」
・・・・・・・・うそ。
高校までは同じ学校で、アタシが手回しをしてたから、安心出来た。
アタシとアイツは“付き合っている”と思われていたから。
ううん、違う。
アタシとアイツが付き合っていると思わせていたから。
でも・・・・・初めて違う学校になって、女子が少なから安心してたらこの様だ。
「もしかして、予定って・・・・・・」
手を変え品を変え聞き出そうとしたのに、この馬鹿はそれ以上何も言わなかった。
ちくしょー!!
探りを入れてやる。
アスカ様をなめんなよ!
探りを入れて聞きだした結果、その日アタシは見たくないモノを見てしまった訳で・・・・・
「だから、言ったじゃん?」
本日のお相手、アタシの高校時代の家庭教師だった人に言われた。
「何がよ!」
「僕にしとけってさ。」
うむむむむ・・・・・。
確かに言われた。何度も言われた。
でも・・・・・・・・諦め切れなかったんだ。
「彼、そう言った意味で君を見てなかったでしょ?」
それも言われた。
でも・・・・・・・望みはあると思ってたんだ。同じ学部に女子は少ないって言ってたから。
「僕の方がお買い得だと思うけど?」
確かにそうだ。それは、認める。
認めるよ、でも・・・・・・・
優柔不断にも見えるお人よし。でも、一度決めると梃子でも動かない程の頑固者。
その、頑固者が恋をした。
きっと、梃子でも動かないだろう。
哀しいけど、そう思った。
「今日は、呑もっか。」
そんなに優しくしないで。
優しくされると、縋りたくなるから。
「アタシ、未成年。」
だから、素っ気無く返したのに。
「大丈夫、僕が保護者になるから。」
そう言って抱きとめられた腕の中で、少しだけ泣いた。
2011.07.11
2011.08.03 訂正