恋をして淋しくて
届かぬ想いを暖めていた。
好きだよと言えずに 初恋は
ふりこ細工の心
放課後の校庭を 走る君がいた。
遠くで僕はいつでも君を探してた。
浅い夢だから 胸を離れない
村下孝蔵 『初恋』より
無理やり合コンに引っ張り出された。
お酒は嫌いじゃないけど、女の子は苦手だ。
小さい頃から同じ年の幼馴染にひっぱりまわされた所為かもしれない。
彼女曰く、僕は草食系で理系男子なんだそうだ。
確かに、大学、理系だけどさ。草食系って、どう言う意味だよ。
「だって、あんた、無害っぽいじゃん。」
自分では解らないけど、そうなのかな?
でも、無害って・・・・・それ、褒めてるの?
「褒め言葉として受け取っておきなさい。」
半ば命令形で終わった会話を思い出した。
無害、無害ねぇ・・・・・
それってきっと、褒め言葉じゃないよな・・・・・・・。
と思いつつも足は待ち合わせ場所に向かっていた。
このまま帰っちゃおうか・・・・・
そんな考えが頭をよぎったけど、如何せん、足は待ち合わせ場所に向かっている。
・・・・・・あぁ・・・・こんな所が“無害”って言われる所以なのか。
そう思ったら、何だかやるせない気持ちになった。
初恋
side sinji
待ち合わせの場所に着くと、ほとんどそろっていた。
・・・・・・・ったく、どんだけやる気なんだよ。
確かにサ、学部に女子は少ないよ。他の学部のヤツラを羨ましいと思ってたよ。
でもさ、だからってさ・・・・・
「あ~、碇、来た。」
今回の幹事が目ざとく僕を見つけた。
「お前が最後だ。」
と言う言葉と共に、「彼女が居るヤツは余裕だね~。」と背中を叩かれたんだけど・・・・
彼女?
彼女って、恋人?
「つか、お前、こんなトコ来てて大丈夫なの?」
真顔で聞いてくるけど・・・・・
「彼女なんて、居ないんだけど。」
「はぁ?お前、美人で幼馴染の彼女が居るって聞いたんだけど?」
心底不思議そうな顔で聞いてくる。
「それって・・・・・・アスカの事?」
「ちょ、おま・・・・『アスカ』って・・・・・」
「向こうは僕の事、『馬鹿シンジ』って呼ぶからいいんだよ。」
あぁだとか、そうだとか口の中でもごもごといった後、「揃ったみたいなんで移動します。」と大きい声で言ったから、参加者の移動が始まった。
でも・・・・・、何でアスカと僕が付き合っている事になってるんだ?
アスカは僕を“手のかかる弟”くらいにしか思ってないでしょ。男扱いされてないんだし。
ま、僕も似たようなモンだけどさ。
動きだした人並みの中で、視界に入った人影に驚いて、さりげなくを装ってまじまじと見てしまった。
「・・・・・・・・綾波?」
口に出してしまった言葉に、胸がチクンと痛んだ。
あの頃に比べ大人になって、きれいになっていた。でも、凛と立つその背中は変わっていなかった。
僕の初恋の相手。
告白なんて出来なかったし、する気もなかった。見ているだけで幸せだった。
でも、どうして?
そんな気持ちがなかった訳じゃないけど、中学を卒業して以来、連絡なんか取ってなかったし。と言うより、連絡を取り合うような仲じゃなかったし。
風のうわさで、彼氏が出来たって聞いたこともあったけど、ここに居るって事はキタイしてもいいのかな?
あの頃よりも少しだけ大人になった僕は、あの頃よりも少しだけ前向きな行動をしようと思った。
例えば、君の近くに座るとか。
そう思ったら、無理やり引っ張り出された合コンも悪くないな?なんて思った。
僕って、現金だな・・・・・・・
「碇です。」
たったそれだけの挨拶。目の前に座った君は僕に気付かない。
「綾波です。」
彼女も変わらず、言葉が少ない。
中学校の頃はチビだった僕は、今じゃ180cmを越えた。あの頃しか知らない人から見たら、別人に見えるのかもしれない。
例え、君が気付かなくっても、僕は君を忘れたことは無かった。
4階の音楽室から、よく校庭の君を見ていた。
陸上部で活躍する君の姿を見ていた。
君がバーを飛び越える姿は、今も胸に焼き付いている。
いつでも楽器を片手に君の姿を探したんだ。
僕には遠い世界の住人に見えた君の居る場所。
光の当たる場所に居た君。
友達に、後輩に囲まれて、君はいつも笑っていた。
そんな君を、僕は好きだった。
ずっと、好きだった。
もしかしたら、今も・・・・・・・・・・
「碇~、呑んでるか?」
と先輩がビールを片手にやって来る。合コンは中盤に差し掛かり、あちらこちらで出来上がってる面々。ま、つぶれてないだけ、マシなんだけど。
綾波とはほとんど話していない。
元々が聞き役だったから。お互いに。
少し残念に思いながらも、行動できずにお酒を飲んでいた。
ま、そんなモンでしょ僕は。
だから、現状に満足なんだか満足して無いんだかよく解らないまま「呑んでます。」と空になったコップを振った。
「まぁ、呑め!」
お酌されたら、呑む。
これが後輩の掟だったりするから、厄介だ。まして、ウチの学部は何故だか縦の繋がりがあったりするからね、先輩に嫌われた所為で希望の研究室に入れなかったって噂がある位だし。
ま、僕はお酒に強いみたいだからいいけど。
「おぉ、いいのみっぷり。」
さらにつがれる。
ま、いいけど。お酒、好きだから。
「センパ~イ、碇を含め、俺たち2年未だ未成年で~す。」
助け舟を出してくれたのはありがたいんだけどさ、でも、誕生日、来てるんだ。
お酒好きだし、まだ大丈夫なんだ。
君に矛先が向かない事を祈るよ。この先輩、少し厄介だから。
「い~え、碇シンジ君は6月が誕生日なので、未成年ではありませ~ん。」
いいご機嫌で言った先輩の台詞に目の前に座っていた綾波が反応した。
「え・・・・・・・・・・。」
まじまじと僕の顔を見た挙句、決死の覚悟って顔をして口を開いた。
「碇さんって・・・・・もしかして、壱中でトロンボーン吹いていた?」
「うん、そう。綾波さんは陸上部だったよね。」
そう返すと綾波の顔がぱぁっと綻んだ。
「じゃぁ本当にあの碇君なの?」
何だか別人みたいで・・・・・・・そう付け加えられた言葉にうなずいた。
確かにね、中学時代よりも身長、30cm位伸びたし?
「綾波さんは中学の頃よりも美人になったよね。」
はにかんだ様な笑顔が可愛かった。
「うわぁ、碇君も中々言うじゃん。」
そう茶化してきた先輩も交えての中学時代の話で盛り上がり
「碇ってチビだったんだ?」
なんて聞いてくるから、「中学までは、前から数えたほうが早かったんですよ。」と返した。
「今は俺よりデカイのに。」
「高校で一気に伸びたんですよ。」
成長痛に苦しみながらも伸びてくれた身長のお陰で、自分に少しだけ自身が持てる様になった。
「そりゃ、うらやましい。俺は中学で止まったわ。」
「でも、中学の時の友達に気付いてもらえないですけどね。」
その言葉に3人で笑った。実例がここにあるんだし。
「んじゃ、碇は珍しく中学ン時の同級生に気付いてもらえたんだ。」
「そうなりますね。」
笑顔で話を聞く綾波は中学時代と変わらない。
「そ~か、そ~か。」
と先輩がうなずき、「じゃ、碇君はお礼にメアドを教えてあげないさい。」そう言った。
この先輩は、世話焼きで気が回わるのだ。悪い人ではない。でも、世話を焼こうとしすぎて、行き過ぎちゃって引っ掻き回しちゃうってオマケが付くけど。
気付かれたかな?
そう思いながらも平静を装って携帯と手帳を取り出した。
「そこでスマートに名刺とかが出ないのが、碇なんだよな~。」
余計なお世話です。
「慣れてないんですよ。」
放っておいてください。
ほら、綾波に笑われたじゃないですか。
「これ。」
そう言って手帳を破って綾波に渡した。メアドだけじゃなく、携帯の番号も書いて。
「僕の方は引っ越してないから近所かもしれないし・・・・・・。よかったら、連絡ください。」
平静を装ってはみたものの、心臓がバクバクしていた。
「・・・・・・・ありがとう。」
断られたらどうしようと思って渡したメモは綾波の手に渡り、無事かばんの中にしまわれた。
その後、綾波を送っていこうと思ってたはずなのに、何故だかその先輩に引きずられる様にして二次会の場所に連れて行かれた。
今は綾波から連絡が来る事を祈りたい気分だった。
もう直ぐ七夕だし、短冊にでも書くか・・・・・なんて思ってしまった僕は、意外とロマンチストなのかもしれない。
2011.07.07