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 目の前で人が死んでしまうかもしれない恐怖。

 正確には、目の前で僕をかばって綾波が死んでしまうかもしれない恐怖。

 それは、自分が死んでしまうかもしれない恐怖を上回った。

 自分の手の届く所にいる人が居なくなる。しかも、自分の所為で。

 その恐怖は経験した人じゃないと解らないのかもしれない。

 自分が死ぬかもしれないなんて、そんな気持ち、吹き飛んだ。

 たった十数秒が永遠にも感じられた。

 僕が失敗したら、綾波が死ぬ。

 世界を救うだとかなんかより、リアルで現実的で怖かった。

 頭の中でこだまする綾波の声。

「あなたは死なないわ。私が守るもの。」

 でも、それで君が死んでしまったら意味が無い。

 僕だけが助かっても意味は無いんだ。

 だから、綾波・・・・・・・・

 

 

 

 

 夢中でエントリープラグをこじ開けた。

 綾波、綾波、綾波!

 生きていて欲しいと願った。こんなに強く思ったことなんて初めてだった。

「綾波・・・・・。」

 僕の声に彼女が反応した。

 

 生きてる。


 涙が出た。

 嬉しくて泣いたのなんて、初めてだ。

 こんなに願ったのも初めてだ。

 僕を「守る」なんて言ってくれた人も初めてだ。

 何もかもが、初めて、だった。

 そして、こんな気持ちも・・・・・・・

 

 

 

 

 

 


 

 


月がきれいだったのを覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 


 僕の視界の中に綾波が居る。

 綾波が僕の視界に入ってくるんじゃなくて、僕が綾波を探してる。

 

 初めて会ったときの君。

 学校での君。

 月を背にして凛と立つ君。

 水族館での君。

 そして、チルドレンである君。

 


 色んな綾波を見てきたけれど、その中に僕だけしか知らない 彼女 がきっと居る。

 僕はそう信じたい。

 そう信じてもいいかな?

 僕に向けてくれる笑顔が特別だと思ってもいいかな?

 一歩を踏み出したいと思う気持ちとは裏腹に、その一歩を踏み出す勇気が無い僕。

 月を背に凛と立つ君が、あまりにも儚くて、このまま月に帰ってしまうんじゃないか?と思ったなんて言ったら笑うかな?

 味噌汁を飲んだ時の君が、あまりにも無防備で、可愛かったなんていったら怒るかな?

 プラグスーツを着た君が、凛々しくて、哀しい気持ちになるって言ったら・・・・・・・

 

 

 伝えられない気持ちと、届いた招待状。

 父さんの事、ありがとう。

 君の優しい気持ちがとっても嬉しかった。

 君に出会えてよかった。

 本当にそう思った。

 伝えたいこの気持ちと、伝えられないこの想い。

 日常と非日常の狭間でもがくことしか出来ない僕だけど。

 

 こんな素敵なプレゼント、きっと、君以外の誰も思いつかない。

 招待状なんて誰からも貰ったことなんて無くって。

 誕生日なんて誰からも祝ってもらった事なんてなくって。

 プレゼントなんて誰からももらった事なんてなくって。

 

 

 

 

 初めてもらった招待状は、ただの紙切れになった。

 

 
 

 

 


悲劇までのつかの間の幸せ

 

 

 

 

 

ナナミです。

チコっと解説。

拍手にありました【蝉時雨】と全く同じモチーフです。

(お読みになりたい方は  )

そちらが、TV版でこちらが新劇場版。

微妙に違うシンジ君の心情を書きわけれれていたら、いいな

 

2011.06.06