2th-02

 

 純粋に人の願いを叶える、ただそれだけの為に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

The darkest hour is just before the dawn

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はもう、エヴァに乗らないって決めたんだ。

 そう思ったあの日。全てを捨て去ろうとしたあの日。

 

 

 

零号機が使徒に喰われた。

 

 

 

 

 

------------いてててて・・・・死んじゃうとこだったにゃ。

 

      あれ?何でこんなコトに居るの?

      一機足りないと思ったら、そういうことか。

 

 

 弐号機から声がした。

 アスカじゃない、声。

「僕はもう、乗らないって決めたんだ。」

 そう、決めたんだ。

 僕がエヴァに乗ったって何もいい事なんて無いから。

「エヴァに乗るかどうかなんて、そんな事で悩むヤツもいるんだ。」

 血が流れる。

「なら、早く逃げちゃえばいいのに。ほら、手伝うからさ」

 破られる壁。

 突き出された、手。

 何て強引な。

「乗らないって、決めたんだ。乗らないって決めたんだ、乗らないって決めたんだ・・・・・」

 呪文の様に呟いた。

「だけどまぁ・・・そんなにイジケていたって楽しい事無いよ。」

 光が眩しかった。

 目を開けると、そこは瓦礫の山だった。

 

 

 そして、目の前で零号機が使徒に喰われた。

 

 

「零号機と融合している。パイロットごと吸収してしまったんだ・・・。」

 聞こえる声。知らない女の子の声。

 何?意味が解らない。

 ・・・・・・・綾波が喰われた?

「君も死んじゃうよ?早く逃げなよ。」

 だけど・・・・・・・・

 手に付いた誰の物とも分からない血。それとも、エヴァの流した血か。

 それが全てを物語っているような気がした。

 

 

 だから走った。

 逃げていた自分を、弱虫だった自分を振り切る様に。

 手を伸ばす事を恐れて、欲しい物を欲しいと言わずに、ただ逃げていた自分を切り捨てる様に。

 助けたい。どんな事があっても。

 僕が願い、僕が叶えたい。

 それは僕になら出来る、僕にしかでき無い事だから。

 つまずいたって、立上ればいい。

 そんな簡単な事を忘れていた。

 

 

 

「乗せてください!」

 父さん、聞いているんでしょ?

「僕を・・・・・僕をこの初号機に乗せてください。」

 聞こえた声。

「何故ここに居る。」

 手を握った。

 逃げちゃダメだ。

 顔を上げて父さんを探した。

「父さん。」

 決めたんだ、もう、逃げないって。

「僕はエヴァンゲリオン所号機パイロット、碇シンジです!」

 そう、僕はエヴァのパイロットなんだ。

 やるしかないのだ。どんな事があっても。

 負ける訳にはいかない。

 負けたら綾波を失ってしまうのだから。
 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に使徒が居た。ここで戦ってはいけない。

 ここでは被害が多すぎる。

 出てしまった被害は多いけれど、これ以上の被害は防ぎたい。

 自分の中のどこか冷静な部分で考えた。

 切り落とされた腕が転がる。

 その痛みよりも何よりも、使徒を倒したかった。綾波を助けたかった。それだけだった。

「ミサトサン!」

 その言葉だけで解してもらえた。

 

 

 

 ジオフロントに射出。

 そう、僕が言いたかった事。

 ここなら少しは、少しだけでも被害は防げる。

 コアを狙えばいい。

 多少でも経験を積んできた、僕の答え。

 そうすれば、被害を防げるかも知れない。

 もう少しだ、後少しだ。

 コアを・・・・・・コアを壊せばいい。


 
ヤれる。

 

 そう思った瞬間、エヴァの電源が切れた。

「エネルギーが切れた?」

 後、少しだったのに。

 どうして?

 どうしてなんだ!?

 いつもこうなんだ?

 

 

 倒せると思った使徒からの逆襲。

 痛みよりも何よりも、“怒り”があった。

 理不尽な事への怒り。

 綾波を奪われた事への怒り。

 

 僕の中の何かが弾けた。

 

「綾波を・・・・・返せ!」

 体中に力が漲る。

 無我夢中だった。

 綾波を助けたい、それだけだった。

 結果がどうなるかなんて、考えられなかった。

 だから・・・・・・
 
「僕がどうなったっていい。世界がどうなったっていい。だけど綾波は、せめて綾波だけは・・・絶対助ける!」

 そう、これは僕の意志。

 命令された訳じゃない、僕の願い。

「綾波、どこだ。」

 使徒のコアに触れると、感じた綾波の気配がした。

 

     だめなの。

     もう、私は、ここでしか生きられないの。

 

 聞こえた綾波の声。

 そんな、そんなさびしい事、言うなよ。

「綾波!」

  

     いいの。碇君。

     私が消えても変わりは居るもの。

 

「違う!綾波は綾波しか居ない。」
 
 

 そうだよ、綾波。

 

「だから今、助ける。」

 

 何処だ?綾波!

 

 何処に居る?

 

 絶対に探し出す。

 

 僕が見付ける。
 
 

 

 

 ・・・・・・・・・・・見付けた!

 

 

 

 

「綾波!」

 

 

      ・・・・・・あ・・・・・・・・

 

 

 振り返った綾波は、綾波のままだった。

 

 そこに居たんだ。

 

 今、そこに行くから。

 

 だから・・・・・

 

 

「綾波!」

 邪魔する物を掻き分けた。

 少しずつだけど、本当に少しずつだけど、距離が縮まる。

 もう少しだ、後少しだ。

「綾波、手を!」

 懸命に手を伸ばした。

 でも、届かない。

 何時だってそうだった。

 僕が欲しいと望んだ物は、何時だって手に入らなかった。

 だから諦めていたんだ、今までは。

 

 

 でも・・・・・・・


 

だったら、手を伸ばせばいい、届くまで。

 

「来い!」

 
 諦めない。

 欲しいと思ったものは、諦めてしまったらそこで終わりなんだ。

 僕はそれを知っている。

 だから、手を伸ばす。
 
 

 

 伸ばされた綾波の手。

 僕に伸ばされた手。

 だから、必死で掴んで引き上げた。

 感じる、綾波のぬくもり。

 

 

「綾波、父さんの事、ありがとう。」

「ごめんなさい、何も出来なかった。」

「いいんだもう、これでいいんだ・・・・・・・。」

 だって、こんなに心が温かい。

 

 

 

 

 

さぁ、約束の時だ、碇シンジ君。今度こそ君だけは・・・幸せにしてみせるよ。

 

 

 

 

 

2011.11.17