純粋に人の願いを叶える、ただそれだけの為に・・・・・・
The darkest hour is just before the dawn
僕はもう、エヴァに乗らないって決めたんだ。
そう思ったあの日。全てを捨て去ろうとしたあの日。
零号機が使徒に喰われた。
------------いてててて・・・・死んじゃうとこだったにゃ。
あれ?何でこんなコトに居るの?
一機足りないと思ったら、そういうことか。
弐号機から声がした。
アスカじゃない、声。
「僕はもう、乗らないって決めたんだ。」
そう、決めたんだ。
僕がエヴァに乗ったって何もいい事なんて無いから。
「エヴァに乗るかどうかなんて、そんな事で悩むヤツもいるんだ。」
血が流れる。
「なら、早く逃げちゃえばいいのに。ほら、手伝うからさ」
破られる壁。
突き出された、手。
何て強引な。
「乗らないって、決めたんだ。乗らないって決めたんだ、乗らないって決めたんだ・・・・・」
呪文の様に呟いた。
「だけどまぁ・・・そんなにイジケていたって楽しい事無いよ。」
光が眩しかった。
目を開けると、そこは瓦礫の山だった。
そして、目の前で零号機が使徒に喰われた。
「零号機と融合している。パイロットごと吸収してしまったんだ・・・。」
聞こえる声。知らない女の子の声。
何?意味が解らない。
・・・・・・・綾波が喰われた?
「君も死んじゃうよ?早く逃げなよ。」
だけど・・・・・・・・
手に付いた誰の物とも分からない血。それとも、エヴァの流した血か。
それが全てを物語っているような気がした。
だから走った。
逃げていた自分を、弱虫だった自分を振り切る様に。
手を伸ばす事を恐れて、欲しい物を欲しいと言わずに、ただ逃げていた自分を切り捨てる様に。
助けたい。どんな事があっても。
僕が願い、僕が叶えたい。
それは僕になら出来る、僕にしかでき無い事だから。
つまずいたって、立上ればいい。
そんな簡単な事を忘れていた。
「乗せてください!」
父さん、聞いているんでしょ?
「僕を・・・・・僕をこの初号機に乗せてください。」
聞こえた声。
「何故ここに居る。」
手を握った。
逃げちゃダメだ。
顔を上げて父さんを探した。
「父さん。」
決めたんだ、もう、逃げないって。
「僕はエヴァンゲリオン所号機パイロット、碇シンジです!」
そう、僕はエヴァのパイロットなんだ。
やるしかないのだ。どんな事があっても。
負ける訳にはいかない。
負けたら綾波を失ってしまうのだから。
目の前に使徒が居た。ここで戦ってはいけない。
ここでは被害が多すぎる。
出てしまった被害は多いけれど、これ以上の被害は防ぎたい。
自分の中のどこか冷静な部分で考えた。
切り落とされた腕が転がる。
その痛みよりも何よりも、使徒を倒したかった。綾波を助けたかった。それだけだった。
「ミサトサン!」
その言葉だけで解してもらえた。
ジオフロントに射出。
そう、僕が言いたかった事。
ここなら少しは、少しだけでも被害は防げる。
コアを狙えばいい。
多少でも経験を積んできた、僕の答え。
そうすれば、被害を防げるかも知れない。
もう少しだ、後少しだ。
コアを・・・・・・コアを壊せばいい。
ヤれる。
そう思った瞬間、エヴァの電源が切れた。
「エネルギーが切れた?」
後、少しだったのに。
どうして?
どうしてなんだ!?
いつもこうなんだ?
倒せると思った使徒からの逆襲。
痛みよりも何よりも、“怒り”があった。
理不尽な事への怒り。
綾波を奪われた事への怒り。
僕の中の何かが弾けた。
「綾波を・・・・・返せ!」
体中に力が漲る。
無我夢中だった。
綾波を助けたい、それだけだった。
結果がどうなるかなんて、考えられなかった。
だから・・・・・・
「僕がどうなったっていい。世界がどうなったっていい。だけど綾波は、せめて綾波だけは・・・絶対助ける!」
そう、これは僕の意志。
命令された訳じゃない、僕の願い。
「綾波、どこだ。」
使徒のコアに触れると、感じた綾波の気配がした。
だめなの。
もう、私は、ここでしか生きられないの。
聞こえた綾波の声。
そんな、そんなさびしい事、言うなよ。
「綾波!」
いいの。碇君。
私が消えても変わりは居るもの。
「違う!綾波は綾波しか居ない。」
そうだよ、綾波。
「だから今、助ける。」
何処だ?綾波!
何処に居る?
絶対に探し出す。
僕が見付ける。
・・・・・・・・・・・見付けた!
「綾波!」
・・・・・・あ・・・・・・・・
振り返った綾波は、綾波のままだった。
そこに居たんだ。
今、そこに行くから。
だから・・・・・
「綾波!」
邪魔する物を掻き分けた。
少しずつだけど、本当に少しずつだけど、距離が縮まる。
もう少しだ、後少しだ。
「綾波、手を!」
懸命に手を伸ばした。
でも、届かない。
何時だってそうだった。
僕が欲しいと望んだ物は、何時だって手に入らなかった。
だから諦めていたんだ、今までは。
でも・・・・・・・
だったら、手を伸ばせばいい、届くまで。
「来い!」
諦めない。
欲しいと思ったものは、諦めてしまったらそこで終わりなんだ。
僕はそれを知っている。
だから、手を伸ばす。
伸ばされた綾波の手。
僕に伸ばされた手。
だから、必死で掴んで引き上げた。
感じる、綾波のぬくもり。
「綾波、父さんの事、ありがとう。」
「ごめんなさい、何も出来なかった。」
「いいんだもう、これでいいんだ・・・・・・・。」
だって、こんなに心が温かい。
さぁ、約束の時だ、碇シンジ君。今度こそ君だけは・・・幸せにしてみせるよ。
2011.11.17