天を恨んではいない。
人もうらんではいない。
私にとってエヴァが全てだから。
私はこの為に生まれてきたのだから。
私はこの為に生きているのだから。
私が迷ってはいけない。
私は望んではいけない。
これが私の使命だから。
私は使徒を倒さないといけないのだから。
私がこの世界を守らなければいけないのだから。
だけど、碇君は・・・・・・
碇君だけは・・・・
私はそう願わずにはいられなかった。
Thank you for making a dream seen all the time
ゴミ箱から拾った、碇君の持っていた機械。
彼は、どんな気持ちでこれを捨てたのか?
私には理解をする事が出来ないのだけれど、私の知っているのは、これは彼が父親からもらったものだと言う事。
それを捨てると言うのは、どんな意味を持つのだろう?
碇指令に、自分の父親に裏切られたと思ったのだろうか?
私には理解できない感情。
未だに複雑な感情は理解が出来ない。
付いていたイヤホンを耳に当てると、音楽が聴こえた。
何とも言いがたい感情が、心に湧き上がる。
でも、言葉にする“すべ”を私は持っていないのだ。
今まではそれを“悲しい”とは思わなかった。
でも、今はそれを“悲しい”と思える。
そんな自分に驚き、碇君に感謝した。
彼が居なかったら、気付かなかったであろう想い。
他の人からしたら、笑われるくらい些細な事なのだろうけれど。
碇君、あなたに出会ってから、本当に色々な事を知ったの。
楽しい、嬉しい、そして悲しい。
食べ物を食べると美味しい事も。
誰かと一緒の食事は楽しいって事も。
だから、あなたに『ありがとう』って伝えたかった。
あなたは『自分は無力』だと思っているけれど、私はあなたに感謝している。
少なくとも、私はあなたに感謝をしている事を知っていて欲しい。
そして、あなたには笑っていて欲しい。
それが私の願いだから。
碇君を護りたい、ただ、それだけだった。
世界がどうとか、私の使命だとか。あの瞬間、全てが消し飛んだ。
誰でもない、碇君に生きていて欲しい。碇君の未来を残したい。だた、それだけだった。
私が死んでも、代わりは居る。
3人目の私が居る。
だから、大丈夫。
きっと、大丈夫。
悩み、傷付いてしまった碇君の顔じゃなく、あの、優しい笑顔がもう一度見たかった。
例えばそれが、私に向けられたものでなくても構わない。
碇君が、碇君らしく笑っていられる世界であって欲しかった。
私が死んでも、代わりは居るもの。
3人目の私が居るもの。
だから、大丈夫。
きっと、大丈夫。
ううん。
大丈夫にしてみせる。
「ATフィールド全開。」
私に出来ることがある。
それが嬉しかった。
零号機は傷付き完璧な状態ではないけど。
「碇君がもう・・・・エヴァに乗らなくていい様にする。」
私の決意。
他の誰でもない、私の決意。
誰かに言われた訳じゃない、誰かに命令された訳じゃない、私の、私が決めた、意志。
碇君に笑っていて欲しいと思った、私の願い。
「だから!」
何も出来ないけど、碇君みたいに上手くエヴァは扱えないけど、私は私に出来る事をするだけ。
「逃げて!弐号機の人。ありがとう。」
伝えられる、感謝の気持ち。
言葉に出せば伝えられる。
伝えたいと思えば、伝えられる。
碇君から教わった事。
だから、大丈夫だと思った。
その瞬間まで・・・・・・・
だめなの。
もう、私は、ここでしか生きられないの。
なすすべもなく、ひざを抱えて座っていた私。
「綾波!」
いいの。碇君。
私が消えても変わりは居るもの。
「違う!綾波は綾波しか居ない。」
・・・・・・え?
「だから今、助ける。」
・・・・・あ・・・・・・
気配を感じて振り返る。
「綾波!」
碇君の声。
でも・・・・・・見えない。見えないの。
碇君の顔が見えないの。
でも・・・・・・・
貴方が来てくれた、それだけで・・・・・・いい。
「綾波、手を!」
伸ばされた碇君の手。
もう、無理なの。
もう、これで、いいの。
もう、これで十分なの。
「来い!」
さらに伸ばされる手。
碇君、あなたが助けに来てくれて嬉しかった
だから、それで充分。
でも・・・・・・・・
私も願って、いい?
自分から伸ばした手は、摑まれ引き上げられた。
摑まれた右手が熱い。
「綾波、父さんの事、ありがとう。」
抱きしめられたら、泣きそうだった。
「ごめんなさい、何も出来なかった。」
「いいんだもう、これでいいんだ・・・・・・・。」
・・・・・・・・ありがとう。
あなたに逢えて嬉しかった。
2011.11.11