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 この家に引っ越したのは、“あの日”の10日ほど前だった。

 その日が近づくにつれて、段々と君は不安定になっていく。

「大丈夫だよ、君が気にする事じゃない。」

 言葉では、いくらでも言えるけど。

「でも・・・・・・。」

「大丈夫。この世界のシンジ君はすでにネルフで訓練を受けている。」

 その言葉に体を振るわせた。

「レイちゃんも怪我をしていない。」

 この言葉には安心する。

 自分で言っておきながら、嫉妬するなんて、情けないけど。

「だから君はサードチルドレンにはならないよ。」

 僕はフォースチルドレンになったけどね。

 でもこれは言わない。まだ、言えない。今はその時期じゃない。

 姉さんが碇指令の秘書になったけれど。

 それは、お互いの意思だから。

 

 この世界に還って来てからかれこれ3ヶ月。

 新しい生活に、新たな第一歩を踏み出してから3ヶ月。

 

 でも、君は未だに不安定に揺れる。

 

 

 

 

 そして、もうすぐ・・・・・・・・・・

 

 

 

 戦いが、始まる。

 

 

 

 

 

 

君のエゴと、僕のエゴ

 

 

 

 

 

 

「姉さん。」

 何故だか一緒に還ってきたこの人のお蔭で予定が随分と狂ってしまったけれど、随分と助かっているのも事実。

 この家も、僕たちも名前も、全てこの人が用意してくれた物。

「光が見えたのよ。」

 と姉さんは言う。

「この世界に居たくは無かったから、夢中で飛び込んだわ。」

 そう、本能でね。そう言って笑う。

「でも・・・・・・・・。」

 全ての人が溶け込んだ原始の海だったんじゃないかな?

「・・・・・・・・・拒否したから。あの女の望んだ世界を。」

 笑顔で言われても・・・・・・・。

「夢中でしがみついてた“想い”と光の中に飛び込んだんだけど・・・・」

 あっけらかんと笑う。

「どうでもよくなっちゃった。」

 ・・・・・・・・そうですか。

 ためいきがひとつ。

「だからね。」

 実に優雅な笑顔で言う。

「あなたたちには幸せになって欲しいのよ。」

「え?」

「あの時は本当にいっぱいいっぱいで何もしてあげられなかったから。」

 そう言って微笑える姉さんはとてもきれいだった。

「それって・・・・・・。」

 僕は姉さんに関ってはいない。だから、とても不思議だった。

「でね・・・・・・・・。」

 見透かす様な視線が痛い。

「復讐はしない方がいいわよ。」

 姉さんが言った。

「それは、一般論としてですか?」

「違うわ。」

 即答。

 言葉に詰まった。

 一般論としてだったら聞く耳など持つ気は無かったんだけど。

「得られるのは一時の暗い喜びと、後悔。」

「経験ですか?」

「そう、経験。」

 彼女は過去、誰に復讐をしたのだろう?

「誰に・・・・・とは聞きません。」

「あら、聞いてもいいのよ。」

 実にあっけらかんとそう言われた。

 過去を過去として自分の中で清算していると言う事ですか。

 僕はまだ、その域には達していないです。残念ながら。

「その気になったら教えてください。」

 それでこの話を終わらせた。強制的に。

 僕の心の中で、“復讐”と言う単語は消えていないから。

 暗い炎は灯ったままだから。

 だから、あの赤い海から還って来たのだし。

 君が『要らない』と言った力を全て自分の物として。それだけじゃなく、持てるものは全て。

「ねぇ、ソウちゃん。」

 そう言って姉さんは優しい顔で眠るサラを見る。

 沙羅双樹。

 これがこの世界での僕たちの名前。

 ふたりでひとつの君と僕の名前。

 僕は君に逢う為にうまれたのだと思うから。

「幸せになりなさい。」

 何故いきなりそうなる?

 僕には姉さんの思考が理解出来なかった。

「自分が不幸だと思ったら、それはある意味で“負け”だから。」

 あぁ・・・・そうか。

 姉さんは僕の中の暗い炎の存在に気付いている。

 

 

 

 

 

 穏やかな日常は続かない。

 それは知っていた。

 戦いが始まる日も、知っていた。だから、安心していた。

 でも、過去を過去として受け入れ切れていない君は、惑う。

 君が犯したわけでもない罪すらを背負う。

 そして、「助けなければ。」と言う。

「誰を?」

 聞き返した僕に「トウジの妹。」と言った。

「あぁ・・・・・フォースになった彼の妹ね?」

「・・・・・・・・・・うん。」

 そんな顔しないで。僕は君の願いなら叶えるよ?

「・・・・・・・いいの?」

 そんな事、聞かないで。

「・・・・・いいよ。」

 僕の、たったヒトコトでそんなに安心しないで。

 僕は、君の為にここに居るのだから。

 

 でも・・・・・・・・

 助ける事にしたのに、はぐれてしまった。このどさくさで。

 例え、それが“エゴ”だとしても、君が望む事は全て叶えたいと思った。

 それは所詮、ソンナモノなのだろうか?

 浮かぶ疑問と、激しい後悔。

 助けなければよかったのか?

 離してしまった手には、ぬくもりが残る。

「姉さん、サラが居ない!!」

「え?」

 ふたりで流れに逆らって、立ち止まる。避難をする人の波に逆らうのは迷惑でしかないのも知っている。

 でも・・・・・・・・

「地上・・・・・・・・・・・。」

 姉さんが言う。

「サラなら、そうするわ。」

 断言。

 あぁ、そうだ。君ならそうするね。

「僕が行きます。姉さんは避難してください。」

「馬鹿言わないで!」

 え?

「使えるモノは使うわよ。いいわね!?」

 

 

 

 

 そして、やっと見付けたのはそれから30分後。

 小さな女の子を庇う様に倒れた君の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

2011.09.26