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「帰ろう。」

 と僕は言った。

 でも、還りたかった訳じゃない。ただ、ここには居たくないと思った。

「でも・・・・・・・・・。」

 と君が言う。

 躊躇う君が、傷付いたままの君が痛々しくて。

「大丈夫。」

 僕が言う。

 何が大丈夫なんだろう。

 何も保障なんて無いのに。

「でも・・・・・・・。」

 躊躇う君が愛しくて。

「還りたくない。」

 捨てられた仔犬の様な目で、でも、もう二度と捨てられたくは無いという眼差しで、僕に言う。

「そっか・・・・・。」

 じゃぁ、ここでふたりで過ごそう。

 それはそれで、いいかも知れないな・・・・・なんて考えてみた。

「でも・・・・・・・・・・。」

 と再び君は惑う。

 もう、何度と無く繰り返すやり取り。

 

 

 最後の最後、儀式のあの瞬間に女神リリスを拒んでしまった君は僕を呼んだ。

 だから、今、ここに、僕が居る。

 でも・・・・・・・僕ではダメだったのかい?

 君が本当に望んだのはリリスだったのかい?

 心の中でタメイキをひとつ。

 本当に残酷だよ、君は。

 

 僕は、自分の存在意義として君を見付けた。

 そうなる様に“仕組まれていた”のだけれど、いつの頃からか僕もそれを望んだ。

 訓練という名の下に外に出された僕は君の写真を見せられた。

「この少年に、サードチルドレンに近づけ」と。

 だから僕は考えた。

 何も知らない僕には“考える”事は出来ても、判断する材料が何も無い。

 だから、聞いた。色々な人に。

 一言一句聞き漏らさないように。

 恋をしているみたいだ、と言われた。

 僕には“恋”がどんなものなのか知らなかったから、そうなんだ、と思った。

 これが“恋”なんだって思った。

 

 偏った知識は、偏った答えしか生み出さない。

 僕は男同士の恋愛が一般的で無い事も知らなかった。

 人が人を好きになるのが、“恋をする”事なんだって思っていた。

 

 本当に何も知らなかったんだよ、ここに来るまで。

 

 

 

「どうする?もう一度、碇シンジとしてやり直す?」

「え?」

 全く持って意外な言葉を聞いた様に僕を見る。

「幸いにしてリリスの、綾波レイの心の欠片はここにある。」

 そう、“君への想い”と言う名の心がここにある。

 これだけは、持っていくことが出来なかったのだろう。そう思った。

「これがあれるから、リリスとは逢えるよ。」

 僕の言葉に動揺を隠す事すらしない。

「但しね。」

 僕は言葉を選ぶ。

 何と言えば君にちゃんと伝わるのか、と。

「あの儀式で綾波レイの存在はなくなってしまった。」

 これは紛れも無い事実。

 過去に存在したスペアボディも無い。

「だから、全てが終わった後には戻れない。」

 キタイに応えられなくて、ゴメン。

 でも、ちゃんと伝えないと。

 それが一番君の為になるのだから。

「戻る事は可能だけれど。」

 僕の力だけでも、君の力だけでも。

 それだけの力を今、僕たちは持っている。

 遅過ぎた・・・・・・と言えなくもないけれど。

「戻れるの?」

 たっぷりと時間をとっての君の返事。

「うん、そう。」

 だから何度も『帰ろう』って言ってたんだし。

「ピンポイントはちょっと難しい・・・・かな。」

「・・・・・・・・そう。」

 考え込んでしまった君を眺めつつ、僕も考える。

 何時に戻ったらいいのかとか。

「どうするの?」

 たっぷりと時間をとってもう一度聞いた。

「この世界には居たくない。でも・・・・・・。」

 君は口ごもる。

 罪悪感。

 それを感じている。

 でも、この世界は君の所為じゃない。

 この世界を望んだ人が招いた結果。

 それは何度となく言った。

 でも、君は哀しそうに笑って「僕の所為だ。」と言う。

 君の所為じゃないのに。

 欲に塗れた大人が自分勝手に描いた世界なのに。

 君は目の前にあるトリガーを引いただけなのに。

 

 

「綾波は・・・・・・・いい。」

 たっぷりと時間をとってからの返事。

「え?」

「今ここにいるのは君だから。」

 僕はキタイしてもいいのだろうか?

 君を求めてしまってもいいのだろうか?

「この世界には居たくない。」

 君にとっての罪の象徴とも言えるこの世界。

 だからなのか?

「カヲル君、君が決めて。」

 すがる様な瞳で、捨てられた仔犬のような瞳で、もうこれ以上捨てられたくは無いと言う瞳で、言われた。

 “依存”と言う言葉が心に浮かんだ。

 あぁ、そうか。

 君は僕に依存したいんだ。

 ずっと、ひとりだと思って生きてきたから。

 それは、僕も一緒だけど。

 傷付いてボロボロになった君は、自分で未来を切り開く事を諦めてしまったんだ。

 だから、僕に“依存して”生きて行こうと、

 自分が行動する事で、人を傷付けてしまわない様に、

 自分が行動する事が、人を傷付けてしまうと思っているのだから。

「解った。」

 僕の言葉に安心して笑った君が愛しくて。

 僕の言葉に安心して笑った君が切なくて。

 

 

 “無垢な魂”と言うものがあるのだとしたら、その言葉は君の贈ろう。

 

 悪意の中に晒されても尚、悪意ではなく好意で人に接することが出来た君に。

 

 僕には出来そうに無いその事を出来ていた君に。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか世界が終わっても、     

          君がそこに居ればいい。

 

 

 

 

 

 

 


 還ろう。あの世界に。

 ふたりで一緒に。
 

 そして・・・・・・・・・

 

 僕たちは新しい一歩を踏み出した。


 
2011.09.01

 

 

 

 

 

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え・・・・・・・ナナミです。

新しいのを考えている時にうかんだんですが・・・・・・・・・

ついにやっちまった!

ってな感じです。

いいんです。ダンナも知ってるし。

(って、ナンなんだ?)

これとは別に、ちゃんとした連載もスタートしますので、ご安心ください。

(って、何を!?)

 

2015.09.04  名波薫乃