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 こうしてアタシはリツコの部屋に着たんだけど。

 おかしいよね?リツコも。

 アタシ、自立なんてとっくの昔にしてるのに。

 

 それにさ、ミサトの家ではずっとシンジが家事してたんだよ。

 シンジってさ、総司令の息子なんでしょ?

 そのシンジがしてたんだもの、妹がしたっておかしくないじゃない。

 不思議よね。本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い海の底に沈んだ守りたかったものに、僕は夢を見てしまう

それから・・・・・・・

惣流アスカ・ラングレーの場合

 

 

 

 

 

 

 

 現実と言うものは、どこかおかしい。

 リツコと喧嘩して部屋を追い出される事が確実になったアタシは、部屋を探した。

 でも、どこも貸してはくれなかった。

 もしかして、手を回されたの?と思ってリツコに聞けば「馬鹿じゃないの?」って言われた。

「私は貴女に今直ぐに部屋を出て行って欲しいの。そんな自分で自分の首を絞める様な事、する訳無いじゃない。」

「でも、どこも貸してくれない!!」

「未成年の上、保証人もいなければ、普通、躊躇するわね。」

「!!!!!」

「第一、収入と見合った部屋じゃないし。」

 何言ってるの?

 意味、解んないよ。

 アタシはアタシに相応しい部屋を借りようとしただけなのに。

「家賃と収入は見合ってないわ、未成年だわ、保証人はいないわ・・・・じゃ、当たり前か。」

 指を折りながらため息混じりに言う。

「だったら!!」

 保証人になってよ・・・・・・って言葉は言えなかった。

 だって、リツコが真剣に怒ってたから。

「いい加減に現実を見たら?」

 何・・・・・・それ・・・・・・・・

「今、おかれている状況、考えたら?」

 何?

 どうして?

 アタシ、間違ってないのに。

「身の丈に合った生活をしなさい、って事。」

「え?」

「もっと、現実を見なさいって事。」

 現実。現実ねぇ・・・・・。

 少なくともアタシはリアリストだと思うんだけど。

 小さい頃から大人の間で苦労してきたんだけど。

 子供っぽい遊びなんてほとんどしなかったし。

 どうして解んないかな?

「期限まであと4日。約束は守ってもらうわよ。」

 取り付く島なんて全く無かった。

 何でそんなに怒っているんだろう?

 たかが他の部屋を覗いた位で。

 だって、アタシが入るんなら大歓迎でしょ?そう思って、たまたま鍵が掛かっていなかった部屋をのぞいたら、えらくリツコに叱られた。

 懇々と一般常識を説くリツコに腹を立てて怒鳴り返したアタシに「出て行きなさい。」と実に冷静に言われた。

「1週間期限をあげるわ。その間に出て行って。」

 こんなに怒ったリツコは見た事が無かった。それ位に真剣に怒っていた。

 でも・・・・・・・あの部屋って・・・・・。

 のぞいた部屋を思い出す。

 アタシが与えられた部屋よりも広くて、アタシが持ち込んだ家具よりも高級品だった。そして、掛けてあった制服。

 誰かを引き取ってるって事?リツコが?

 ・・・・・・・信じられない。

 アタシ同様、個人主義で他人との生活なんてウザイと思ってそうなリツコがだよ?

 しかも、アタシの予想では高校生位の女の子。

 どんな理由かは知らないけど、リツコはその事をアタシに知られたくないんだ。

 おかしいよ。

 どうしてアタシじゃなくって、他の子を、同居している子を選ぶ?

 どうしてアタシじゃなくって、同居している子を大切にする?

 その理不尽さに腹が立ったけど、あんなに真剣に怒っているリツコは初めてで・・・・・

 少しだけ、ほんの少しだけ、その子が羨ましいと思った。

 

 

 

 寮でなんか暮らしたくは無かった。

 こんな人工的な、まともに日の光を浴びない様な場所。

アタシはこんな所に住む人間じゃない。
 
 そう思ったけれど、期限内に部屋は借りられず、リツコが手配した寮に荷物ごと放り込まれた。

 むちゃくちゃ腹は立ったんだけど、これが現実ってヤツなの?

 だとしたら、現実ってのがおかしいんだと思う。

 だって、このアタシがこんな生活してんだから。

 

 で・・・・・・・・久々にリツコと会って、今後の進路を聞かれた。

 今は義務教育で中学に行っているけど、卒業したら好きにしていいらしい。

「じゃぁ、大学に行きたい。」

 そう言ったアタシの言葉に「無理。」と返された。

「どうして?」

 不思議だ。ドイツでは大学だって卒業したのに。

「ドイツ支部経由か、卒業した大学経由で直接大学に申し込まなければ無理。」

「え?」

「だって、貴女、高校卒業の資格を持っていないでしょ?」

「はい?」

「日本の高校の卒業資格。」

 そりゃ持ってませんが何か?

「それが無いと受験資格が無いわ。」

 ちょっと待って!受験資格が無いってどういう事?

 意味、解んない。

「資格って・・・・・・何とかなんないの?」

 だって、馬鹿シンジの妹や渚が大学に通うかも・・・・って聞いたよ?

 それはどうなのよ?

「日本の大学に行きたいなら、基本的に18歳以上じゃないと無理な所が多いわ。だから、卒業した大学経由で申し込むのが一番手っ取り早いと思う。」

 何それ。めんどくさい。

「ネルフで何とかしてよ。」

 無言でにらまれた。

「・・・・・・・無理。」

「どうして!」

「日本には日本のやり方があるの。それに従って欲しいわ。」

「どうして!」

 だって、アタシは日本人じゃないし。

「その頭は飾り?自分で調べたらいいじゃなんじゃない?」

 ムカついたけどその通りだった。

 そもそも誰かに頼ろうとしたアタシがバカだったんだ。

アタシはひとりで生きていくんだ!

 リツコが立ち去った後、改めてそう感じた。

 だから、ドイツ支部と卒業した大学に戻ってみようと思った。元々そう言われてたし。

 これから日本の中学は長期休暇に入るから、丁度いいかも。そんな風に思ってた。

 でも・・・・・・・いい返事がもらえないまま日本に戻ってきた。

 おかしいな、アタシ、世界を救ったチルドレンなのに。

 そんな時、栄転の話が出た。

 エヴァの研究をして欲しいと。チルドレンとしての経験を生かして欲しいと。

 でも・・・・・・・・

 ドイツ支部なんだよね。向こうに居た時、そんな話、無かったんだけど?

 ねぇ、何でここじゃないの?ここじゃいけないの?

 たったひとり残ったチルドレンなんだよ?重要じゃないの?

 アタシの事、手放しちゃっていいの?

 その言葉は言えなかった。あくまでも事務的に手渡された【辞令】と書かれた封書が、全く知らない人事課の人だったから。

 どうして?と思った。

「どうしてアンタがこれを渡すのよ。」

「それは、指令も副指令も出張中だからです。」

 あくまでも事務的に、でも少し怒った様にその人は言った。

 ねぇ、何で怒るの?

 アタシに会えて嬉しいんでしょ?サインくらいしてあげるよ。写真だって一緒に撮ってあげるのに。

 何で?

でも・・・・・・・・・

 と思った。

 何かがおかしい。何かが違う。

 たったひとりになってしまったチルドレン。

 チルドレンであるアタシ。

 あの頃はそんな事感じなかった、広々としたチルドレン控え室で考えた。

 不機嫌を隠さずに出て行った、名前も知らないネルフの人間。

 余所余所しい弐号機の整備の人。

 リツコやマヤは忙しそうにしているし、ミサトは居ない。

 加持さんはあのガキのお守りをしてるし、渚も同じ。

 ヒカリは・・・・・・喧嘩した。

 だって、くだらない事ばっかり言ってくるから。

 おかしい。

 何かがおかしい。

 

どうして?

 

 と思った。

 どうして誰もいないの?

 どうしてひとりなの?

 

・・・・・・解らない。

 

 相談する相手がいなかった。

 アタシの周りには誰もいなかった。

 

 解らないけど、アタシは今、ひとり、だった。
 

 

 


2011.08.29

 

 

 

 


ナナミです。

何とも言いがたい終わり方ですが、これ以上書いていくと長くなりそう。

ので、諦めました(根性なしでゴメンナサイ)

時間と根性があれは・・・・・・・と思います。

さて、本当なら別の人を書こうと思っていたのにこうなってしまった訳ですが・・・・・

時間がありましたら、あの人とこの人のを書きたいですが、どうなんでしょう?