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「あ・・・・・・・・・」

書きかけの書類を目の前にレイの手が止まる。

前なら、何事もないままに書き進める事が出来た事が、今は、彼女には出来なかった。


生年月日。


人が生まれた日。

人間なら誰にでもある・・・・・

そう、人間なら・・・・・・・・


レイの手からペンが零れ落ちた。

「え?綾波?」

隣で同じ書類を記入していたシンジの手も止まった。

「大丈夫?真っ青だよ?」

「シンジ君。」

シンジの向かいで書類を書いていたカヲルが指差す項目を見てシンジの顔色が変わる。

 

生年月日。

 

忘れていた。

そう思ったシンジがカヲルの書類を見る。

「僕?」

意図の解ったカヲルがシンジに聞く。

返ってきたのは、肯定のうなずき。

「僕は2000年9月13日。セカンドインパクトの日だよ。」

意味深だよねぇ・・・・と続く言葉にシンジが今返せるのは、苦笑いだけだった。

「綾波。」

「何?碇君。」

「調べてもらおう。何かわかるかもしれないし。」

「・・・・・・・うん。」

 

 

 

 

 

 


   お誕生日じゃない日の歌  

 

 

 

 

 

 

 家族会議である。

何故だか、家族会議である。

シンジがユイに聞き、ユイがリツコに聞いた結果が、これである。

夕食が終わって、お茶を飲みながらの家族会議であった。

「ごめんなさい。過去のログを調べたんだけど、見付からなかったわ。」

申し訳なさそうに言うリツコにレイは首を振った。

「いいえ。ありがとうございます。」

何とも言い難い空気を払拭したのは、ユイの一言だった。

「じゃぁ、好きに決めていいのよね!」

セカンドインパクトの所為で生年月日の分らない子供が多数いた。

その為に政府がそういった法律を作成済なのである。

それを捉えた上でのユイの発言であった。

だから、勝手に決めてもゲンドウではないが「問題無い。」のである。

「レイちゃん、決めちゃいましょう!!」

目が輝いている。

やる気満々である。

「私の経験から言わせて貰うとね、」

こんな時のユイに逆らう危険性を知っている面々は、黙って話を聞いていた。

「女の子はお誕生日が遅い方がいい気がするの。
 
 私、3月生まれでしょ?

 小さい頃は損したな~と思う事も多かったけど、大人になってからは得したかも!って思うわ。

 それとね、大きなイベントの前後は避けた方がいい。」

「あ!それはトウジも言ってた。」

ユイの言葉にシンジが賛同する。

「鈴原君が?」

「クリスマスの翌日だから、クリスマスと一緒にされるって。」

「確かに・・・・・・・可哀想だけど、そうなっちゃうわよね。」

ユイはため息混じりにそう言うと、

「ゲンドウさんが4月で、シンジとアオイが6月。

 リっちゃんは?」

リツコに問いかけた。

「11月です。」

聞かれた事には几帳面にリツコは答える。

「カヲちゃんは?」

「僕はセカンドインパクトの日なんで・・・・」

カヲルは苦笑いで答える。

「9月ね。」

「はい。」

「私が3月だから・・・・・・・」

だから、何?

と聞きたい所なのだが、何も言わせない迫力がユイにはあった。

「1、2、5、7、8、10、12、1、2・・・・って所かな?」

「どうして?」

ユイが疑問形で言った所で、シンジからの質問が入る。

「だって、毎月お誕生パーティーなんてステキじゃない!!」

もはや、ユイの独壇場である。

誰も逆らえない。

「じゃぁ!!!!」

何がじゃぁ!なんだと、心で突っ込む碇兄妹。

暴走したユイは、ある意味、エヴァよりも危険だ。

逆らった場合、後で確実におもちゃにされる。

「星座でいってみる?」

今度は星座ですか?とリツコが口の中で言う。

思わずタバコを探してしまう自分に苦笑いするリツコに気付いたアオイが灰皿を手渡した。

「シンジはふたご座でしょ。

 ふたご座と相性がいいのは、てんびん座と水がめ座。」

カチリとライダーの音がして、紫煙が上がる。

もはやリツコは考える事を放棄していた。

「でも・・・・・・・レイちゃんて“月”のイメージがあるから、かに座?」

 

注)かに座の守護星は月である。

因みに、シンジ君のふたご座の守護星は知性を司ると言われている水星。

 

「かあさん!!」

シンジ強いの言葉にユイがきょとんと見返す。

「そんなに捲くし立てたら、きめられないでしょ?」

正論である。

正論であるが故に、逆らえない。

「綾波、ゆっくりと考えるといいよ。」

「碇君。。。。。。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大人は大人で仕事の話を始めたように、子供は子供で話し始める。

ダイニングに残った大人をよそに、アオイはカヲルとリビングの方に移動してた。

「何の書類書いてたの?」

その場にいなかったアオイがカヲルに聞いた。

「高校に提出する書類。」

確かにそれなら生年月日の記入はあるだろう。

だが、時期的にはかなり早い。

通常の推薦入学だって始まってはいないのだ。

「え?今の時期に?」

「推薦でね。内定も貰ってる。」

「それって、ズルくない?」

「そうだねぇ・・・・ズルイかな?」

「ズルイよ!」

口を尖らせて言うアオイに、噴出しそうになるのをこらえつつカヲルはワザと真面目な顔をする。

「アオイだって合格圏でしょ?」

「そうだけど・・・・・・」

「何なら、僕がアオイの勉強、みてあげようか?」

普通、人は藪を突付いて蛇を出したくないのである。これ以上、出来る事なら勉強なんてしたくは無いのである。

「あはは・・・大丈夫。うん、大丈夫だよ。」

突然笑い出したアオイにカヲルは首をかしげるのだった。

 

 

 

 


一方、シンジはレイを伴って、その場を離れた。

大人の始めた事後との話に、仕事を押し付けられる危険性を察知したのと共に、レイに考える時間と場所の必要性を感じたからだった。

だから、今は、シンジの部屋に2人でいた。

「7月2日。」

唐突にレイが言った。

「7月2日?何で?」

いきなりのレイの言葉に、シンジの方が慌てる。

「その日、“心”を貰ったから。」

「え?」

「ヤシマ作戦の日。」

そう言えば・・・・・・・とシンジが思い返す。

あの日は月がきれいで・・・・・・綾波もキレイだったなぁ・・・・・

などと思い出に浸っていると、現実に引き戻された。

「碇君が、泣いてくれたから。」

「!!!!」

今更そんな話を蒸し返さないでくれよ~とシンジは真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。

「私の為に、碇君が泣いてくれたから。」

「あ・・・・・・・・・」

確かに、あの時のレイには"自分自身”を見てくれる人はいなかったのかもしれない。

「本当に嬉しかったの。気付いたのは、後になってからだけど。」

「そっか・・・・・・」

「そう。」

「でも・・・・・・、どうせだったら、もっと後にすればいいのに。」

もう、過ぎちゃってるよ?もったいないじゃん。

続く言葉にレイは首を振る。

「大丈夫。お誕生日プレゼントは前後半年、受け付けるから。」

「え???」

レイらしからぬ発言に驚きはしたものの、要は1年中じゃないか・・・・とシンジは気付く。

「・・・・・って惣流さんが言ってた。」

「アスカがぁ?」

「そう。」

「アスカらしいや。」

「そうね。」

「綾波。」

「何?碇君。」

「お誕生日、おめでとう。15歳。同じ年だよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

        あとがき  
 

ヤシマ作戦の日付ですが・・・・・・・

私個人のイメージとして、≪満月≫があります。(映像もそうだったし)

月を背に立つ綾波レイの姿があまりにも印象的だったので。


よって、調べました。満月。

2015年の満月は4月4日、5月4日、6月3日、7月2日と31日、8月30日、9月28日、10月27日、11月26日、12月25日。

お話の流れでいくと、4月は論外。5月もキツイ。

(転校した時点で中2で、第三使徒から第4使徒までが3週間なので・・・・・・・)

となると、6月以降になります。

じゃぁ!と思ってみると、7月に満月が2回。

丁度いいからそうしよう。珍しいしね!(本当)

と実に安易に決めさせていただきました。

 

2010.06.06