碇アオイの困惑

ねぁ、母さん。

 

僕は今、幸せだよ。

 

ずっと、母さんに逢いたいと思っていたんだ。

 

ずっと、一人だったんだ。

 

もう一人になるのはイヤなんだ。

 

 

 


だから・・・・・・

 

 

 

 

ずっと、ここにいてもいい?

 

 

 

 

 


   

                     碇 アオイの困惑

 

 

 

 

 


目が覚めて、視界に入ったのは・・・・・見たことも無い部屋。 

 


    ここは?

 

 

思考が空転する。

あまりにも色々な事がありすぎて、考えがまとまらなかった。

 

    あぁ・・・・・サルベージされたんだっけ、僕。

 

ふと、自分か着ているパジャマに目がいった。

ピンクのやけにかわいいパジャマだった。


「女の子になったんだっけ、僕・・・・・」

 

 

 


 

 

 

 

 

「おかえり。」

僕は、かつて僕だった人に言われた。

「ただいま。」

僕がそう言うと、彼はとてもキレイに笑った。

「今日から君は僕の妹になるんだ。」

「妹?」

「ごめんね。女の子になってしまって・・・・・」

僕は首を振った。

女の子になった事より、今、ここにいる事が不思議だった。

 

僕は、エヴァの中にいたはず。

僕は母さんとエヴァの中でそれなりに幸せだったのだから。

 

「でも・・・・ もう戦わなくても、エヴァに乗らなくてもいいよ。」
 
はっと顔を上げた。

 

そう、ここは戦いの場。

 

僕はずっと、エヴァに乗って戦っていたのだ。

 

そして、僕は、もう戦いたくはなかった。

 

「君は僕が守るから。みんなで君を守るから。」

 

ただ・・・・純粋にうれしかった。

そんな事、初めて言われた気がする。

 

「・・・・・・・ありがとう・・・・・」

僕は笑った。

 

 

 

 


「シンジ!!」

母さんの声がした。エヴァの中でずっと聞いていた母さんの声。

 

何で、ここにいるの?

 

そう思ったら、抱きしめられていた。

「ごめんね・・・・ごめんなさい。」

母さんは泣き出していた。

「母さん・・・・・」

「みんなで、幸せになりましょう。」

そう言って母さんは僕から離れた。

視線を上げると、そこには父さんが立っていた。

「シンジ、すまなかった。」

え?

「父さん・・・・・」

僕は父さんに抱きしめられていた。

その行動に、僕はびっくりした。

父さん、僕はいらない子じゃなかったの?

でも、そこの場所の心地よさに、安心感に僕は泣き出していた。

父さんが僕の背中をさする。

大きい手。

暖かいと思った。

「名前を考えた。ユイとふたりで考えたんだ。」

そう言って、言葉を切る。

僕は、視線を上げて、父さんを見た。

優しい顔をしていた。

「お前の名前は『アオイ』。碇アオイだ。これからは碇アオイとして生きていって欲しい」

 

 

 

 


そして、僕は、女の子になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝ていた部屋も、女の子らしいかわいい感じだった。

 

    これは、母さんの趣味?

 

そう思うと、妙にこそばゆい。

 

    起きよう。

 

僕はベットから降りると、クローゼットを開けた。

「うわっっつ!!!」

中にあったのは、ピンクやらフリルやらレースやら・・・・やたらとかわいい服。

 

    僕にこれを着ろって言うの?

 

目に涙が浮かんだ。

どうも、僕は涙もろくなってしまっているらしい。

 

    でも・・・・・・・・いいよね?

 

「アオイ!!」

しばしの間の後、ドアが勢いよく開いてかつての僕がが飛び込んできた。

「お・・・・・お兄ちゃん・・・・・?」

僕は彼をそう呼んだ。

その響きが、妙にうれしくて安心した。

「だ・・・大丈夫?」

あせっているお兄ちゃんを見て、感じた。

 

    僕は大切にされているの?

 

「・・・・・・・・・・」

さらに目に涙が浮かび・・・こぼれた。

「ど・・・どうしたの?」

お兄ちゃんからの問いに、僕はクローゼットを指差した。

クローゼットの中を見たお兄ちゃんは頭を抱えていた。

「僕の服、着る?」

コクンとうなずく。

お兄ちゃんに手を引かれ、部屋の向かう。

 

つながれた手は暖かくて、安心した。

 

僕を護るって言ってくれた人の手。

決して大きくはないけれど、それでも、今の僕より大きかった。

 

 

「おはよう、アオイさん。」

途中で綾波に声をかけられた。

「あ・・・・綾波・・・・・」

僕の知っている綾波をは少し違う。そんな彼女に僕は驚いた。

 

    ねぇ・・・・・・・綾波も還って来たの?

 

「レイって呼んで。同性になった事だし、仲良くしましょう。」

「う・・・・・うん。レイ・・・さん?」

「レイ、でいいわ。私もアオイって呼んでいい?」

コクン。

音がしそうな程、うなずいた。

 

    ここは暖かい。

 

そう思ったら、涙が出そうだった。

母さんがいて、お兄ちゃんがいて、レイがいて・・・・父さんもいる。

あの頃、僕が望んだものがここにはある。

 

「アオイ、こっち!」

 

お兄ちゃんの部屋には、知らない人が居た。

 

「おはよう、アオイさん、よく寝られた?」

向けられた笑顔に、僕はドキッとした。

 

随分とキレイな人だったから。

 

「・・・え・・・・っと・・・・」

「カヲルだよ。」

「カヲル君?」

「そう。よろしく頼むよ。」

「こちらこそ・・・・・・・」

頬が赤くなるような気がした。

 

 

 


    
そして、僕は、初めて人に『好き』って言われた。

 

 

 

 

 

 

着替えなきゃ。

そう思って気付いた、体の変化。

うっすらと膨らんだバストと、足りないふくらみ。

 

    ・・・・・・・・トイレ、どうしたらいい?

 


改めて感じた、体の変化に僕は動揺しいた。

そして、今まで来ていた服が大きかった。

 

    ・・・・・・・・本当に女の子になちゃったんだ・・・・・・・

 

 

改めてそう感じると、涙が出た。

 

でも、悲しかったわけじゃない。

 

だって、ここは、暖かいから。

 

 

護ってくれると言ってくれた人。

幸せになりましょうと言ってくれた人。

優しい笑顔で生きていって欲しいと言ってくれた人。

仲良くしましょうと言ってくれた人。

そして、好きだと言ってくれた人。

 

 


ありのままの自分を受け入れてくれる。

 

僕はずっと、必要とされたかったから。

 


    じゃぁ、ここでは?

 

 


不安を隠せずにリビングに戻ると、テーブルの上には4人分のお茶が用意されていた。

 

「ゴメン、もうじきお昼だから。母さんが外で食べようって。」

 

おなか空いてた?と聞いてくるお兄ちゃんに、首を振った。

 

 

    あぁ・・・この人は僕なんだ。

 

僕が何を望んでいたのかを知っている。

 

 

    だから・・・・・・・・

    安心していいの?

 


綾波に促されて、みんなでお茶を飲んだ。

静かな時間が心地よかった。

 

 

    安心する。

 

 

僕はここにいてもいいのかも知れない。

素直にそう思えた。

 

 

 


「落ち着いた?」

かつて僕だった彼に言われた。

僕はコクンとうなずいた。

 

    言葉は要らないよね?

 

「これから食事に行くから。それからね、ネルフに行くんだ。」

その言葉に、震えた。

「ナンバーレスのチルドレンとして、登録することになる。」

「で・・・・・・・でも・・・・・・・・」

もう、戦わなくていいって言ったのに・・・・ お兄ちゃんって、嘘つきなんだろうか?

僕は、哀しくなった。

「これは、君の為なんだよ?」

カヲル君の言葉に伏せていた顔を上げた。

この人も、きっと、優しい。

「そう、チルドレンじゃないと、非難警告がでたら、シェルターに行かなければならないでしょ?」

「!!!」

そんな事・・・・・・・・・考えた事もなかった。

確かに、シェルターに非難なんてした事は無い。

でも、それは、チルドレンだったからであって、チルドレンでない今は、非難警告が出ればシェルターに非難しなければならないんだ。

そんな事にすら、気付かなかった・・・・・・・


「僕がいる以上、アオイがエヴァに乗る事は、無いと思うし。」

 

    エヴァに乗らない。

 

それは僕にとってはうれしい事だけど・・・・・・・お兄ちゃんは大丈夫なの?

 

でも・・・・・・・・この人は、僕よりも強い。

そう思った。

 

 

    赤い世界で何があったの?

 

    どうしたら、そんな風になれるの?

 

かつて僕だった人は、今の僕とは全然違う。


それだけは理解した。


だけど・・・・・・・

 

「ねぇ・・・アオイ、その服じゃ大きいでしょ?私と着替えましょう。」

「え・・・・・・・ でも・・・・・・・・・・・・」

綾波も違ってた・・・・・・・・。

半ば強引に部屋に連れて行かれ・・・・・・・・説明された。

「女の子は、Tシャツ1枚できちゃダメ。」

え?

そうなの?

そんな事・・・・・・・・・知らないよ。

 

 

紆余曲折があって・・・・・・・・・(だって・・・・その・・・ブラをつけろとか言うんだよ?)

キャミソールなるものの重ね着でそれは回避されたんだけど・・・・・・・

 

何だか、とても、かわいい服に着替えさせられた。

 

鏡に映った僕は、やっぱり女の子で・・・・・・・・・

 

白いフワフワしたワンピースが似合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせの場所に母さんが居た。

おしゃれな感じのレストランで・・・・・・・・個室まで取ってある。

 

「こちらです。」

お店の人が案内してくれたんだけど、そこに辿り着くのに苦労した。

 

母さんが用意してくれた靴は、ミュールと言うものらしく、踵の所にすごく細いヒールがついていて・・・・・・

 

こんなので、歩けるの?

 

って感じだった。

その上、サイズまで大きくて・・・・・・・・・僕はヨタヨタと歩いた。

 

見かねたお兄ちゃんが手をつないでくれたんだけど・・・・・・・その手はいつの間にか、綾波とつながれていた。

 

少し・・・・・・・心が痛んだ。

 

それを見ていたのかカヲル君は「つかまれば?」と腕を出してくれた。

 

このままじゃ、確実に転ぶよな・・・・・・・

う~~~~~背に腹は変えられない?

 

僕はカヲル君の腕にしがみついた。

 

 

やっとの思いで部屋に辿り着くと、にこやかな母さんが居た。

「待ってたわよ。」

そう言った後。「あら、似合うじゃないアオイ。」と言った。

 

母さんは、きっと、確信犯だ。

絶対そうだ!

「母さん!!!」

 

「違う!!マ!マ!!」

母さんは僕の言葉を遮って言った。

その顔は実ににこやかで・・・・

 

う~~~~~ だから、そうじゃなくって!!

 

「こんな靴じゃ、歩けない!!」

「女の子はおしゃれしなくちゃ♪」

「サイズ大きいし!!」

「じゃ、新しいの買いに行きましょ♪」

 

    ・・・・・・・負けた・・・・・・・

 

お兄ちゃんも綾波も笑ってるしっっ。

 

「アオイ、座ったら?」

「・・・・・・うん・・・・・」

母さんとは普通に話せるんだ。エヴァの中で話してたから。

 

お兄ちゃんも綾波も大丈夫。

カヲル君も、タブン、大丈夫・・・・・・・・だと思う。知ってるみたいだし。

父さんは・・・・・・・苦手意識が有るけど、大丈夫。だって、あんなに優しい顔してたし。

 

でも・・・・・他の人はダメ。

 

元々、人と話すのは得意でなかったけど、今は怖かった。

他の人の視線が怖かった。

 

だって、バレてしまいそうで・・・・・・・

 

確かに鏡に映った僕は、どこから見ても女の子だったけど。

 

でも、怖かった。

 

ここに来るまでで、そう思った。


「アオイ?どうしたの?」

「母さん・・・・・・あ、と・・・・ママ。僕、人が怖いよ。」

「どうして?」

隣に座ったママは僕の頭をなでながら、優しく聞いてくれた。

「だって・・・・・・・」

「大丈夫よ。アオイはアオイだから。」

「でも・・・・・・・」

「大丈夫。シンジもいるし、レイちゃんもカヲちゃんもいるんだから。」

カヲちゃん?

その響きがおかしくて、カヲル君を見ると、少しだけムクレてた。

「ユイさん。それ、やめてくださいって言ってますよね?

  今じゃリツコさんもそう呼ぶんですよ。」

リツコさん???

「あぁ・・・カヲル君はリツコさんと同居してるんだ。下の階でね。」

え?・・・・・と。

「僕もチルドレンなんだよ。」

「え?」

「そうなのよ。カヲちゃん優秀でね。

  あ・・・そうだ!作戦課の責任者にならない?」

「ユイさん、それ、マジで言ってます?」

「え~~~~っっっ。いいと思うんだけど。」

「僕はこれ以上、葛城さんに恨まれたくはないです。」

そうよね~なんて、母さん・・・じゃないママは笑い飛ばすけど・・・・・

僕の知らない間に、状況は変化している。確実に。

それがいい変化だといいな・・・・・と思いながら食事をしたんだけど・・・・・・

 

 

    ご飯が食べられません。

 

 

会話は楽しいし、料理は美味しいんだけど、僕には量が多すぎる。

 

オードブル、スープ、サラダ、パスタにデザートってメニューだったんだけど・・・・・パスタを見た段階で挫折した。

「ママ・・・・・こんなに食べられない。」

ママはえ?って顔して僕を見た。

「シンジも食が細いと思ったけど・・・・アオイはさらにその上をいくの?」

そう言うと、ママはお兄ちゃんの前に僕の皿をドンと置いた。

綾波の分を少し引き受けたらしいお兄ちゃんは、恨めしそうにママの顔を見ていた。

そうしたら、カヲル君の手が伸びて、半分に減ったお皿を返された。

「もっと・・・・」

と言ったら呆れられたけど、何だかうれしかった。


その後、僕の靴を買う為に行ったショッピングセンターはお買い物大会と化し・・・・・・・満足そうにママは荷物をお兄ちゃんに持たせていた。

 

 

 


    でも・・・・・・・・

    女の子になっちゃったけど、ミュールは歩きにくかったけど、こんな毎日っていいかもしれない。

 

 

僕はその時、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


発令所へ向かう。

綾波は「しなければいけない事があるから」とさっき、別れた。帰りは遅くなるらしい。

 

 

途中の休憩所に、黒いプラグスーツを着た人が立っていた。

 

 

トウジだ・・・・・・・

 

 

僕は咄嗟にカヲル君の後ろに隠れてしまった。

 

だって、お兄ちゃんは彼の元へ走って行ってしまったから。

 

仲良さそうに話すふたりに、罪悪感を感じた。

 

だって、僕は彼の足を奪ってしまったのだから・・・・

 

 

「アオイ!紹介するよ!!」

お兄ちゃんは笑顔でそう言って手招きをする。

 

でも・・・・・・・・足が動かない体が震える。

 

そんな僕に気付いたのか、カヲル君が「大丈夫?」と聞いてきた。

 

僕はカヲル君にすがった。そうしなければ、立っていられなかった。

 

「アオイ、どうしたの?」

お兄ちゃんが戻ってきた。

そして、

「ゴメン、アオイ。君は気にしなくてもいいんだよ。」

お兄ちゃんは小声でそう言った。

 

 

でも・・・・・・・・

 


トウジは、杖を突いているとはいえ、しっかりとした足取りでここまで来ていた。

 

「どうした?」

トウジが聞いてきた。

きっと、僕は真っ青になっているんだと思う。

そんな彼の優しさが、哀しかった。

 

「びっくりしたんだよ。」

「何やて?」

「だって、いきなりそんな格好に人に合ったら、びっくりするよ。」

そうかいな・・・・・トウジはポリポリと頭をかいていた。

「紹介するよ。僕の妹のアオイ。」

そう言って、お兄ちゃんは僕を見る。僕は、カヲル君の影からペコンとお辞儀をした。

「で・・・・・・・こっちが、鈴原トウジ。僕の親友?」

笑顔で聞くお兄ちゃんに、トウジは「悪友やろ。」と返した。

「わしは鈴原トウジや。よろしゅうな。」

腰をかがめて視線を合わしてくれる彼の気持ちが痛い。

「・・・・・・・・・・・・・」

言葉が・・・・・・・・出なかった。

「なぁ・・・渚。わし、そんなに怖いんか?」

「どうだろう?」

カヲル君はくすくすと笑っているみたいだった。

「彼女、人見知りするんだよ。」

僕はカヲル君にしがみついた。

「ねぇ・・・・・トウジ。背、伸びたんじゃない?」

お兄ちゃんが会話に混ざる。

あえて、矛先を逸らしてくれたのかもしれない。

 

    ありがとう。

 

心の中で手を合わせた。

 

「おぉ!伸びたで!!寝てばっかやったからの。」

 

トウジは相変わらずで・・・・・・あんな事があったのに、それでも変わっていなくて・・・・・・

 

 

    僕はどうしたらいい?

 

    僕は赦されてる・・・・の?

 

でも・・・・・・・

「それって・・・・・ズルくない?」

お兄ちゃん、自分で話を振っておいて、それは無いんじゃない?

「シンジ君は伸びなかったの?」

カヲル君、それ、地雷だと思う。。。。。。

「うるさい。」

ほらね。

「オトンもオカンも大きいのにな」

確かに!

「うるさい!!」

やっぱり・・・・・・・

「これで、エヴァに乗れば最強なんてサギだと思わない?」

え?

「確かにな。」

カヲル君の言葉に、トウジがうなずいていた。

 

 

     本当にそう思ってる・・・・・・・・の?

 

 

でも、何時の間に仲良くなっているんだろう?

 

不思議に思った。

「あ、そ~だ、トウジ。プラグスーツなんて着て、どうしたんだよ。」

「あぁ・・・・・暇しちょったら、シンクロテストしに来い言われたんや。

  シンクロ率?それが50超えたら模擬戦させてくれるちゅう話や。」

「ふうん。で?今はいくつなの?」

「・・・・・・30%台」

ボソっとトウジは答えた。

 

それって、高いの?低いの?

 

僕には解らなかった。

「始めたはかりだったら、それくらいなんじゃない?そうは思わないかい?」

カヲル君はお兄ちゃんに同意を求めていた。

「ん~~~どうなんだろ?僕はもっと、高かったから。」

「なんやと~~~!!」

トウジがお兄ちゃんの首を絞めてた。

なんだか、子犬がじゃれているみたいで楽しそうだった。

「・・・・・・やっと笑った。」

「え?」

「シンジ君と鈴原君は、とっくの昔に仲直りしてたんだよ。

  だから、君が気にする事じゃない。」

「で・・・でも・・・・・・」

「シンジ君は君の存在を奪ってしまった事を気にしている。

  だから、君が気にする事じゃないんだよ。」

「・・・・・・うん・・・・・」

 

 

 

 

 

僕らは発令所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「え~っとね、アオイ。トウジはフォースチルドレンなんだ。」

「え?鈴原君が?」

 

だって・・・・トウジは・・・・・・・

 

「そ、よろしゅうな。」

ニヤっと、トウジは笑った。

「・・・・・う、うん。」

「でね、トウジ。アオイはチルドレンに登録される。」

「こんな小さい子がかぁ?」

トウジは驚いていた。

「鈴原君、それは彼女に失礼。アオイは君と同じ年。」

「ウソやろ?」

ウチの妹より小さいやんけ・・・・・・と言われた。

 

    ど~せ僕は小さいですよ。

 

カヲル君とトウジに挟まれると・・・・・会話が頭の上を素通りする気がする。

 

    いいんだ!!

    僕は女の子になったんだから、身長なんて関係ないもん!!

 

「すまん、すまん。そんなにむくれるなや。」

トウジは楽しそうに言った。

「それにしても、シンジの妹はえらいかわいいのぉ。」

 

    へ?

    僕が?

    かわいい?・・・・・の??

 

「あげません。」

カヲル君が僕の手を引っ張った。

 

    え?何?

 

「カヲル君、大丈夫。トウジには洞木さんがいるから。」

え?

「シンジ!!!ヒカリとは・・・・・」

と、ここまで言ってからトウジは「シマッタ!!」って顔をした。

「・・・・・・・・自爆?」

僕はお兄ちゃんに聞いた。

「だね・・・・・」

お兄ちゃんは楽しそうで・・・・・・カヲル君もトウジも楽しそうで・・・・・・

 

 


このまま時が過ぎればいい・・・・・・・・・、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


朝から綾波がうるさい。

「ア~オ~イ~、ブラウス、1枚で着たらダメ!」

あ・・・・・・・・・そうか。

忘れてた。

でも・・・・綾波も変わったね。

前は君の方が無頓着だった気がするんだけど・・・・・・・・

 

仕方ない。

僕はブラウスの下に肌着を着た。

 

 

 

 


朝から、ママが――だって、そう言えって言われたし――いくつものお弁当箱を並べておかずを詰める。

 

あの頃、夢に見たような日常が、ここにはあった。

 

僕はうれしそうに見ていたのだと思う。

 

「アオイ、朝ごはん、食べちゃいなさい。」

そう言われた。

「うん」

僕は自分の前に並んだ朝食を見て思った。

 

・・・・・・・こんなに食べれない。

 

この体になって思った事。

 

 

    ご飯が少ししか食べられません。

 

 

だから、僕はお兄ちゃんのお皿に食べれない分を放り込んだ。

 

う!!!っとお兄ちゃんは僕をにらんだけど、気付かない振りをしたら、綾波がクスクスと笑ってた。

 

 

 

 

 


そして、僕らは学校に向かった。

 

 

 

 

職員室である。転校生になるんだから、その通りなんだけれど・・・・・・・

 

母さん・・・じゃないママ、手筈が良過ぎ。

 

見知っている担任の先生に連れられて教室に向かった。

 

今までここにいたんだけど・・・・・・・

 

そう思ったら、すごく、恥ずかしかった。

 

 

始業のチャイムが鳴り、担任が入っ行った。

「ずいぶんとこの教室も寂しくなりましたが・・・・・・・

  今日は転校生を紹介します。」

担任の先生の言葉に、教室にどよめきが走った。

 

転校生・・・・・・・この時期だし・・・・珍しいのかな?

 

「君、入りなさい。」

僕を呼ぶ声がした。

でも、動けなかった。

いきなり女のこになってしまって、スカートなんかはいてる。

恥ずかしさと、居た堪れなさでこの場から逃げ出してしまいたかった。

 

      助けて・・・・・・

 

そう思わずにはいられなかった。

 

      でも・・・・・・・それは無理?

 

泣いてしまいそうだった。

 

「君、入りなさい。」

再び担任に促された。

 

やっとの思いで教室に入った。

恥ずかしくって、顔が上げられない。

クラスメイトの反応のよさに、ビクっと体が震えた。

 

「碇・・・・・あ・・・・アオイです。」

やっとの思いでそれだけ言った。

かつての僕の席には、お兄ちゃんが当然のように座っていて・・・・・・・

隣の席にはカヲル君。

 

のん気にふたりで手なんか振ってるしっっ。

 

「え~、彼女は碇君の双子の妹さんだそうだ。仲良くするように。」

担任はそう言うと、空いている席に座るように言われた。

 

    どうしよう・・・・・・・・・・

    視線が痛いよ。

 

ふと見ると、お兄ちゃんとカヲル君と綾波が手招きしていた。

 

    どうしよう?

 

僕はお兄ちゃんの席の方へ向かった。

お兄ちゃんの隣に座っていたカヲル君が、ひとつ後ろの席に移動してくれた。

 

ありがとう。カヲル君。

 

 

 

 

 

休み時間、昼休みと、比較的平和に過ごせた・・・・・・と思う。

 

メールはたくさん来たけど、お兄ちゃんも返信してくれているみたいだし。

 

 

そして、今は屋上にて、お弁当を広げていた。

 

当然、ママが作った。

 

それだけでうれしかった。

 

屋上には、お兄ちゃん、綾波、カヲル君に洞木さん、ケンスケに僕。

トウジが居ないのは当然として・・・・・アスカがいなかった。

後で聞いてみようと思った。


「碇さん。」

洞木さんに呼ばれた。なんだか、ヘンな感じ。

「え・・・・と。アオイがいい・・・・・・です。」

早く慣れないといかないから。呼ばれるなら、同じがいい。

「アオイさん、あのね・・・・」

「アオイでいい・・・・です。」

「じゃぁ、アオイ。そんなに堅苦しく話さなくてもいいの。私の事、ヒカリって呼んでね。」

僕はうなずいた。

早く慣れないといけない。言葉遣いも何もかも。

 

他愛ない会話でする食事は楽しかった。

 

 

でも・・・・・・・・・アスカが居ない。

 

どうしてるんだろう?

 

僕がいなくても、ご飯、ちゃんと食べてるかな。

 

そう思ったら、悲しくなった。

「アオイどうした?お弁当、全部食べられないの?」

 

お兄ちゃん、それ、半分当たり・・・・・・・・

 

「帰りにお弁当箱、買って帰ろう?」

「うん。」

僕はうなずいた。

 

 

 

 

 

 

放課後、僕は教室の掃除をしていた。

人数が減ってしまった為、掃除は当番制じゃなくなっていた。

僕は教室の掃除。

お兄ちゃんも、綾波も、カヲル君もいない。

ヒカリちゃんが僕を気にしてはくれるけど、彼女は委員長としての仕事もある。

だから、僕はヒカリちゃんに迷惑をかけないように頑張っていた。

 

でも・・・・・・・・机ってこんなに重かった?

 

僕は、力と体力の無さを実感していた。

 

・・・・・・・疲れた・・・・・・・

でも・・・・・ゴミを捨てに行かなくちゃ・・・・・

 

はぁ・・・・・・・

と、ため息をついて、ゴミ箱を持ち上げた。

 

 

「碇さん。」

クラスの男子が声をかけてきた。

名前は知らない。タブン、前は隣のクラスだったから。

戦いが始まって、みんな疎開していった。

だから、生徒の数も減って・・・・・・・今じゃ、1学年、1クラスだ。


「な・・・んですか?」

彼は大きいので、僕が見上げる形になった。声が震えてるのが、自分でも解った。

「重いでしょ?手伝うよ。」

 

    え?何で?

 

不思議そうに彼を見ていたら、

「お前、何抜け駆けしてんだよ!!」

と、他の男子が言ってきた。

 

   えぇぇぇぇぇ!!!!

    何!?何なの!?

    訳解んないしっっ。

 

「碇さん、俺が手伝うよ。」

さらに他の男子まで!!

 

   何?何なの?

 

自分よりも体の大きい男子に囲まれると、何故だか怖くて・・・・

 

    助けてよ、お兄ちゃん。僕、解んないよ。

 

・・・・・・・・ヤバ・・・・ 涙出てきた・・・・・

 

 

ガタン

 

 

ゴミ箱が落ちた。

その音にヒカリちゃんが来てくれた。

 

「アオイどうしたの?」

泣いている僕にヒカリちゃんは驚いて

「ちょっと、あなたたちアオイに何をしたの!?」

と怒鳴ってくれた。

 

何かされたわけじゃない。だた、怖かっただけ。人が怖かっただけ。

じっと見られると、僕の事がバレてしまいそうな気がして。

 

だから、僕は首を振った。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

それだけ言うのが精一杯だった。

体が震えている。僕は立っていられなくて、その場に座り込んだ。

 

ヒカリちゃんはそこに居た男子にゴミを捨てるように言った後、僕の隣に座り込んでくれた。

 

「大丈夫?」

僕は顔を上げられずに、うなずいた。

「アオイ?」

そう言ってヒカリちゃんは僕の肩に触れた。

 

ビク!!!

 

僕の体が震えた。

 

その過剰は反応に、ヒカリちゃんの方が驚いていた。

 

僕は人に触れられるのが・・・・・・怖いのかもしれない。

 

 

「・・・・・ご・・・め・・んなさい・・・」

 

 

「ううん。いいの。こっちこそ、ごめんね。」

 

ヒカリちゃんは優しい。

 

お兄ちゃんが来るまでの間、ヒカリちゃんは隣に座っててくれた。

 

 

「ありがとう、洞木さん。」

お兄ちゃんはそう言うと、どうしたの?と聞いてきた。

僕はただ、首を振った。

言えなかった。人が怖いなんて。

 

「ごめんね、洞木さん。アオイ、スゴイ人見知りでしょ。」

 

ヒカリちゃんは立ち上がると、お兄ちゃんと二言三言会話をしていた。内容は大体想像がついた。

 

「ほら、アオイ。帰るよ。」

差し出されたお兄ちゃんの手につかまる。

自分からなら大丈夫なのに、人に触られるのはダメなんて、随分身勝手なんだと思った。

 

 

でも、その手は暖かくて・・・・・・・・

 

安心する。

 


そして、僕は家路に着いた。

 

 

 

 

 

その後、なし崩し的にトウジが居候するなんて、僕はその時、全く知らなかった。

 

 

 

 

 

初: 2009.06.22 (オヤジの青春)

2009.12.03  改定