ヒカリ嬢の憂鬱

鈴原が学校に来ない。

 

先生に聞いても教えてくれない。

 

今日で3日目。

 

鈴原に何かあったんだろうか?

 

明らかに、あの日の鈴原はおかしかったし・・・・・・

 

アスカも綾波さんも碇君も来ない。

ネルフで何かあったのかな?

 

 

「ねぁ、相田君、鈴原の事、何か聞いてない?」

「いや・・・・何も聞いていないよ。

  でも・・・・・・・・・」

相田君は苦々しそうに言葉を続けた

「エヴァの参号機、松代に届いてるんだ。

  もしかして・・・・・トウジのヤツ・・・・」

 

その言葉を聞いて、足が震えた。

 

 

 

もしかして・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 


鈴原?

 

 

 

 

 

 


    


洞木ヒカリの憂鬱 

 

 

 

 


「委員長、これから病院?」

校門を出た所で相田君に呼び止められた。

「うん。」

最近の相田くんは元気がない。

鈴原も碇君もいない所為なんだろうか。

もう、随分と長い間、二人は学校に来ていない。

 

「トウジ、元気にしてる?」

「もう、元気よ。

  元気すぎて『腹減った』ってうるさいわ。」

「・・・・・・・そっか・・・・・・・」

相田君は遠い目をしていた。

「鈴原待ってるわ。相田君がお見舞いに来るの。」

「俺は・・・・・・・行けない。」

そう言った相田君の顔は寂しそうで・・・・、悲しかった。

「俺は・・・・・トウジの顔を見たくないんだよ。」

あんなに仲が良かったのに・・・・何故?

でも・・・・・・

 

 

「俺は・・・・・・

  俺は、エヴァに乗りたかったんだよ・・・・・・・」

 

「相田君?」

 

「乗りたいんだよ!!エヴァに!!!

  シンジはさ、まだ許せたさ。

  でも、なんでトウジなんだよ!!なんで俺じゃないんだよ!!!」

 

「でも・・・・・・・鈴原は足を失くしたわ。」

「それが何だって言うんだよ!!

  そんなの関係ないよ!

  エヴァに乗れるんなら足の1本や2本!!!」

鈴原と・・・・・・同じか。

鈴原も同じ様な事、言ってたもの。

『ワシの足で世界が救えるんやったら、安いモンや』

ってね。

男子はヒーローに憧れるって?

残された方の事、考えれるのかしら全く!

 

「・・・・・・・・相田君・・・・・・・」

「ゴメン、委員長。俺、まだ行けないや。」

寂しそうに言う相田君に、私がかけられる言葉は無い。

だからこそ、しゃんとしないと。

「そっかぁ・・・・・」

「ゴメン。トウジに謝っておいてくれる?」

「了解しました。その代わりお礼、よろしく」

「あぁ・・・いいよ。

  話したい事もあるし。」

「話したい事?」

「そ。  もし、今時間があるんだったら、話さない?」

「・・・・少しなら・・・・」

通り道にあった自動販売機で相田君がジュースを買ってくれて、それを持って近所の公園に行った。

 

途中、病院での鈴原の話をした。

足の切口がよく見えないからって私に見せようとした事とか(これはマジメな話、眩暈をおぼえたわよ)、自分は世界を救ったヒーローだと言ってたりとか、相変わらず勉強をしたがらない事とか、色々と。

 

 

その度に『トウジらしいや』と相田君は笑っていた。

 

 


公園に着くと、ベンチに座った。

むやみやたらとできる話じゃない。

 

「委員長はさ、惣流からしか話、聞いていないだろ?

  だから、シンジや綾波の話も聞いて欲しいんだよ。」

おもむろに相田君は話を切り出した。

「え?  どう言うこと?」

思わず周りを見回した。ある意味、機密に触れる話になると思ったから。

「だから!自分に都合のいいように話すって事さ。」

「アスカが?」

「いや。惣流だけじゃない、人間が『基本的に』そうだって事」

どういう事?

「まず、参号機。

  倒したのは初号機。これは間違いない。」

私は肯いた。これはアスカから聞いただけじゃなく、ネルフの人から聞いた。

だから、確かだ。

 

「でも、惣流は『初号機が倒したのよ』って言ったんだろ?

  だから、悪いのはすべてシンジ・・・・と。

  違う?」

「違わない!!!!

  だって、碇君が鈴原を!!!」

息巻く私を相田君が手で制する。

「だ~か~ら~・・・・・いい?

  実際は、零号機も弐号機も参戦していたんだよ。」

え???

そんなの聞いてない。

アスカ、そんな事言ってないよ・・・・・

「惣流、嘘は言っていないんだよ。

  ただ、本当の事じゃない。解る?」

「え?」

「巧いんだよ、言い回しがね。

  相手に誤解をするように・・・・・って言ったら言い過ぎか。

  相手が自分に都合よくとってくれる言い回し?そんな感じかな。」

私、アスカに騙されたの?

「参号機を、最終的に倒したのが初号機だったって事。」

相田君は言葉を切った。

それは、間違いないんだから、いいじゃない。

 

悪いのは、碇君でしょ?

 

・・・・・・・・違う・・・・・の・・・・・・?

 

「まず、弐号機はほぼ一撃で参号機に倒された。

  次に零号機は使徒に侵食されかけ、腕を切断され、戦闘不能。

  で、最も戦う意思が無かった初号機にお鉢が回ってきたんだそうだ。

  最初、シンジは拒否したらしい。

  でも、初号機が倒した。

  と、これが真相だと思う。綾波から聞いた。」

 

「ちょっと待って・・・・・アスカは戦ったの?」

「ま、そうだろうね。

  少なくとも、戦う『意思』はあったはずだと思う。」

「アスカは・・・・・戦ったのね・・・」

頭がグラグラしてきた。

悪いのは碇君だけじゃないの?

 

「綾波はさ、トウジが参号機に乗ってるの、知ってたって。惣流もね。

  知らなかったのはシンジだけだったらしい。」

 

ちょっと・・・・待って・・・・・・

 

「綾波はシンジに戦わせたくなかったみたいだったけど。」

「ど・・・う言う・・・事?」

「シンジ見てたら解るだろ?

  あいつは割り切れないんだよ。綾波や惣流みたいにさ。」

え?

だって・・・・・・でも・・・・・・

「シンジはさ、相手を傷付ける位なら、自分が傷付くよ・・・・多分ね。

  自分が我慢すればまるく収まるんだったら、我慢しちゃうヤツだしね。」

待って・・・・

何を言ってるの?

私、解らないよ!!!

「知らなかった?委員長?

  葛城家の家事、シンジか全部やってたんだよ。

  料理だけじゃなく、掃除も洗濯も・・・・・全部。

  惣流は文句は言っても、何もしなかったらしいし。無論、お礼なんて言ってないよ。

  朝、風呂を沸かし忘れたからって、惣流に叩かれた事もあるよ。」

 

 

「え?本当なの?」

 

何よそれ!!!

アスカ、そんな事してたの?

知らなかった・・・・・・

 


「全部、本当。

  裏も取れてるよ。」

 

 


・・・・・・・頭が飽和状態だわ・・・・・・

 

 

話すだけ話して、相田君は「じゃ、俺は帰るよ」と帰って行った。

多分、これ以上の話は無理だと悟ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

あぁ・・・・・鈴原の所に行かなくちゃ・・・・・・・

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「鈴原、入るわよ」

「あぁ・・・・・・イインチョかいな。いつもスマンなぁ」

私は鈴原の入院を聞いてから、学校帰りのお見舞いが日課になった。

鈴原は今は元気だ。

ネルフの医療技術がどれほどすごいのか、私には解からない。

でも、足を失くした鈴原が、1ヶ月でこんなに元気でいられるのだから、きっと、すごいのであろう。

鈴原は、参号機に乗った。フォースチルドレンとして。

だから、ネルフの医療機関にいられるのだ。

 

でも・・・・・参号機が使徒に乗っ取られていたの、気付かなかったのだろうか?

 

その結果、参号機は倒された。

碇君の乗った初号機に。


どんな顔して参号機を倒したんだか・・・・・・

 

碇君に対して、責める気持ちしか浮かんでこないかった。

彼に会ったら・・・・・自分を抑えられる自信はない。

きっと、酷い言葉で罵るだろう。

ううん。殴りかかるかもしれない。

 

理屈では解かっている。

 

使徒は倒さなければいけない

 

理屈では解かっていても、感情が追いついていかない。

 

家では散々泣いた。

口汚い言葉で碇君を罵ったりもした。

 

 


でも・・・・・・・

 


鈴原は赦してる。

じゃあ、私は?

 

さっきの相田君の言葉


最終的に参号機を倒したのが初号機だったって事。


これが真実なの?

 


私、赦せるの?

 

 

「イインチョ、どないしたんか?

  疲れてるんか?」

思考の中にいた私は鈴原の言葉で現実に戻された。

鈴原は優しい。

入院中に時間もあるんだろう、色々考えているみたいだ。

「ううん。そんな事、ない。」

「ほうか・・・・・」

鈴原はそう言って窓の外に視線を逸らした。

その、前より大人びた顔に哀しさが浮かんでいた。

「なぁイインチョ。

  シンジのヤツ、どないしとるんやろ。」

何度と繰り返された質問。

そのたんびに私が視線を逸らし・・・・・・・そのままになっていた。

1ヶ月以上もお見舞いに来ない友達を、自分を傷付けた友達を鈴原は心配している。

「碇君?」

「あぁ・・・そや」

気まずい沈黙が流れた。

 

知っている。

知っているけど、答えたくはない。

 

なんで碇君の事、心配するの?

あなたの足を奪ったのよ!!!!

思わず叫びそうになるのを、唇をかみ締めて堪えた。

 

 

気まず沈黙が続いた。

 

 


「なぁ・・・・・イインチョ。

  今日な、ネルフの偉い人は来るそうなんや。

  ワシに何の話があるんやろ?」

気まずい雰囲気に、鈴原が話をそらした。

でも・・・・・・

「私・・・・・帰ろっか?」

心にもない事を言ってみる。

本当は帰る気なんてないのに。

鈴原に引き止めて欲しだけなのに・・・・・

「いや・・・・・ええよ。」

鈴原は私と視線を合わさない。

遠い所を見たままだ。

「なぁ、イインチョ。

  センセはな、エヴァになんて乗りとうなかったんや。」

「・・・・・・・・・・・・」

相田君も同じ事、言ってた。

「イインチョは惣流と仲ええから・・・・惣流の事は知っとると思う。

  惣流はエヴァに乗る事が出来る自分に誇りを持っとる。

  でもな、ジンジは違うんや。」

「・・・・・・・・・」

「シンジはな、違うんや。

  無理矢理エヴァに乗せられて、エヴァが操縦出来るからよって、無理矢理戦わされてたんや。」

「そ・・・・・・・そんな・・・・」

初めて聞いた。そんな事。

碇君はそんな事言ってないし、アスカも言わない。

 

確かに、碇君が戦う姿を私には想像が付かない。

 

「いきなり呼び出されて、いきなりエヴァに乗せられて、戦い続けてる。」

「そんな事・・・・・・・・・」

知らなかった。

私はてっきりアスカみたいに小さい頃から訓練を受けていたんだと思っていた。

 

 

違うの?

 

 

 

でも・・・・・・鈴原の話が本当なら、アスカの話の中で腑に落ちなかった点が腑に落ちる。

さっきの相田君の話を聞いてしまったら、余計に感じるのかもしれない。

 

 

だからアスカは・・・・・・・・・

 

 


「ワシ・・・・・センセを傷付けてしまったのぉ・・・・・」

「そんな・・・・・そんな事ない!!」

涙がこぼれそうだった。

 

入院して1ヶ月。お見舞いにすら来ない友達を鈴原は心配している。

そんな鈴原が哀しかった。

「碇君は・・・・・・入院してるらしいの」

「!!!」

がばっと、体こと鈴原はこっちを見た。

「アスカが言ってた。」

「センセ、怪我でもしたんか!?」

「知らないの。詳しくは解からないの。」

ゴメンナサイ・・・・・

思わず口からこぼれた。

「でも・・・・・相田君がね、アスカや綾波さんから聞いたらいいんだけど

 あの後、ずっと引きこもってたんだって。碇君。

 相田君が電話をしても出なかったって・・・・・」

「ほうか・・・・」

「その後の戦いで・・・・・

 警報なったでしょ?その戦いでね、碇君、エヴァに乗ったわ。」

涙がこぼれた。

 

碇君が傷ついてない訳じゃない。

 

なんで、そんな事に気付かなかったんだろう?

 

「イ、イインチョ!!!泣くなや」

鈴原はなにやらゴソゴソと探し物をした後、不自由な体で私に近づくと、ベットの上から私の頭をなでてくれた。

「碇君。。。。。。碇君ね、もう、エヴァに乗らないつもりだったらしくてね・・・

  だから・・・・・アスカと綾波さんが戦ったんだけど・・・・・・

  碇君に助けられた・・・・・・って。」

「ほうか・・・・・シンジは乗ったんか。」

「ねぇ鈴原。

  チルドレンって何なの?

  なんでチルドレンってだけで戦わなければいけないの?

  なんでチルドレンってだけで傷付かなくちゃいけないの?

  なんで鈴原は足を失わなくちゃいけないの?」

もう止まらない。

 

感情が爆発してしまった。

 

泣きたいのは鈴原なのに・・・・・・

哀しいのは鈴原なのに・・・・・・

 


「なんで・・・・・・・なんで・・・・・」

 

泣かないつもりだったのに・・・・・・

 

あふれ出した感情と涙は止まらなかった。

 

「ねぇ・・・

  ネルフって何?使徒って何?エヴァって何?」

鈴原に答えられる訳なんてないのに・・・・・・

「!!!!!!!」

私は鈴原に抱きしめられた。

「妹がの、小さい頃泣き止まんとこうしとったんや。」

そう言って鈴原は私の背中をなでてくれた。


鈴原は優しい。

入院してからいろんな事を考えていたんだろう。

少しだけ大人になった・・・・・・そんな鈴原が愛しい・・・・・・・・と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれ位そうしていたんだろう?

何時の間にか、心の中にあった、怒りや恨みなどのマイナスの感情が薄れて行った。

暖かい気持ちが心の中にあった。

 

 

碇君を許そう。

 

 

 

そう思った。

 

一番傷付いている鈴原が許しているんだから・・・・

私が赦せない訳が・・・・無い。

そう、思った。

 

悪いのは使徒。

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・ノックの音で我に返った。

 

鈴原の手が離れる。

私は下を向いたまま、ポケットからハンカチをだすと涙を拭いた。

顔が火照っている。

きっと、目も真っ赤だろう。

再びなるノックの音に、鈴原が私を見た。

 

大丈夫。

私はうなずく。

 

 

「はい。」

ドアが開いて入ってきた女性は私たちに近づくと、深々と頭を下げた。


「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。

  謝って赦してもらえる事じゃないのは解かっています。

  でも・・・・・・・・本当にごめんなさい。」

 

この人・・・・・・誰?

ネルフの偉い人だよね?

 


呆然とする私たちと、深々と頭を下げたままの女性。

何とも不思議な光景だった。


「どちら様・・・・・・ですか?」

あ!とその女性は顔を上げた。

どこかでみた事のあるような・・・・・そんな顔は若干赤みがかっている気もする。

「ごめんなさい・・・・」

私ったら・・・と言いながら、その女性は表情を引き締めた。

「初めまして、私、碇ユイと申します。シンジの母です。」

あぁ・・・・碇君って、お母さん似なんだ。

「シンジのお母さんですか?」

「そう。私がシンジの母親なの。

  初めまして、鈴原トウジ君。

  いつもウチのシンジがお世話になってます。」

そう言って、碇君のお母さんはにっこりと笑った。

「は、初めまして・・・・鈴原トウジです!」

鈴原も緊張しているみたいだった。

私たちには母親はいない。だからこの『母親』を感じさせる存在自体が違和感と同時に、『懐かしさ』を感じさせるのだった。

「あ・・・・

  初めまして、洞木ヒカリです。」

「あなたが・・・・お話は伺っているわ。」

一瞬だけ碇君のお母さんは微笑むと、再び表情は引き締めた。

そして、鈴原の目を真っ直ぐに見た。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい。

  謝って赦してもらえない事は十分承知してます。

  こうやって謝る事だって、自己満足に過ぎないのだと思う。

  でも、謝らせてください。

  本当に申し訳ありませんでした。」

そして・・・深々と頭を下げた。

 

 

「・・・・・・・頭を・・・・上げてください」

「鈴原君?」

「あなたの所為じゃありません。」

「でも・・・・・・」

「シンジの所為でもありません。」

「でも・・・・・

  子供のした事の責任は親が取るものだから」

「いえ。誰の所為でもありません。

  悪いのは・・・使徒です!」

「え?」

「参号機は使徒に乗っ取られた・・・・と聞きました。

  だから・・・・仕方なかったんです。」

そう言った鈴原の表情は、諦め・・・と同時に決意が浮かんでいた。

きっと、鈴原なりに、いっぱい考えたんだろう。

「そ・・・・それを誰から・・・・・?」

「赤木さんです。」

「リッちゃんが?」

碇君のお母さんは一瞬だけ驚きの表情を浮かべた後、苦々し気な表情になり、赤木リツコさんって言うのよ・・・と続けた。

 

どういう意味なんだろう?

 

それにしても・・・・・・・帰るタイミング、失っちゃったみたい。

私の聞いていい話じゃない・・・・

 

「でも・・・・・・あなたの足は・・・・・・」

「ええんです」

「でも・・・・」

「ええんです。仕方なかったんです。

  この足だけで皆を守れたんやったら、それでええんです。」

そう言って笑う鈴原が、私の知っていた鈴原と違うような気がして・・・・少しだけ先に大人になってしまったような気がして・・・・

でも、鈴原・・・・・・・・・・

 

「分かりました。

  あなたの足は私が責任を持って、治させます。

  いえ、治させてください。

  今のネルフにはそれ位の技術はありますから。」

「はい!!お願いします!」

鈴原・・・・よかった。

「で・・・・・・質問なんですけど・・・・・」

言いにくそうに鈴原は切り出した。

「シンジは『母さんはいない』ゆうとったんです。

  ・・・・・どう言う事でっしゃろ?」

あぁ・・・その事ね・・・・と碇君のお母さん。

 

「ある場所にね、幽閉・・・・って感じかしら?されていたの。

  事実上は、『死んだ』って事でね。

  シンジが3歳の頃だったわね。

  だから、シンジは『死んだ』と思っていたのよ。」

 

 

幽閉?

何それ?

 

「こう見えても私、結構優秀な科学者なのよ」

碇君のお母さんは実にキレイな笑顔でそう言うと

「これ以上は機密に触れてしまうの。ごめんなさい。」

と続けた。

 

碇君の周りは・・・・・エヴァの・・・ネルフの周りは機密でいっぱいって事なの?

 

「シンジのお母はん、シンジはどないしとるんですか?」

ユイでいいわ・・・・と碇君のお母さんは言うと、寂しそうに

「シンジは・・・・・・眠っているわ。」

と言った。

 

 

眠っている?

じゃぁ、怪我はしていないの?

 

 

さっきまでの碇君に対する怒りが消えると、ううん、例え消えなくってもやはり心配は心配だった。

「怪我はしとらんのですか?」

「ええ。今はただ、眠っているの。」

「何故?」

「解らない・・・・・・でも・・・・・

 戦う事に疲れてしまったのかもしれないわ。」

 


なんて事!

 

碇君だって、傷付いてたんだ・・・・・

それなのに私ったら・・・・・

「シンジに・・・・・

  シンジに会ってくれるかしら?」

その、ユイさんの顔は寂しげで、悲しげで、少しだけ誇らしげだった。

 

 

  

 

 

 

私やユイさんが手を貸そうとするのを遮って、鈴原は車椅子に乗った。

これは、リハビリが本格化してからの一貫した鈴原の行動だ。

 

今後の為に。

 

そう考えているのかもしれない。

 

 

私たちは、雑談をしながら碇君の病室に向かった。

ユイさんは聞き役で、碇君の学校での話を楽しそうに聞いていた。

いいな、お母さんて。

 

そう思いながら話していると、碇君の病室についた。

 


ユイさんと鈴原に続いて病室に入った。

 


広い病室のベットの上で、碇君は機械に囲まれて眠っていた。

モニターから出る音だけが、碇君の生きている証・・・・・そんな気がした。

言葉がでなかった。

だって、この姿・・・・・初めて鈴原の病室に行った時の姿と酷似している。

 

 

 

碇君・・・・・・

 

 


赦せる。

 

 

 

そう思った。

 

 


ごめんなさい。碇君

 

私だけが被害者の顔をして、鈴原を傷付けられたって被害者の顔をして。

碇君が命がけで戦っていたのを知っていたのに。

知っていたのに、気付かないふりをしてた。

 

これからはもっと、碇君と話そう。

 

アスカの話もしなければいけない。

今まで、碇君に頼っていたアスカは、きっと、家事なんて出来ないから。

アスカは『出来ない』事を認めないかもしれない。

でも、それを認めさせて、教えなければいけない。

 

 

だって・・・・・

 

きっと、碇君はユイさんと暮らす事になる。

ユイさんはそれを望んでいるはず。


私は私に出来る事をするわ。

 

 

だから・・・・・・

 

碇君も・・・・・・・

 

 


私たちはそもまま無言で病室を後にした。

 

 

初: 2009.0410(オヤジの青春)

2009.11.24 改定 


  


あとがき   
と言う名のタワゴト

大好きなんです!!ヒカリちゃんもトウジ君も!!

しっかり者で、努力家で、甘えるのが下手なヒカリちゃんは、人の気持ちを察しようとしてしまう分だけ、自分の気持ちを後回しにしてしまいそうで。幸せになって欲しいんです。

今回、読み直してて思ったんですが、

 

     「私・・・・・帰ろっか?」

     心にもない事を言ってみる。

     本当は帰る気なんてないのに。

     鈴原に引き止めて欲しだけなのに・・・・・

この辺り、恋する乙女だな~~~などと思いつつ(笑)

このふたりは、ずっと、等身大のカップルでいて欲しいな~と思っとります。